番外篇 3. 写真の悩み相談室

似顔絵 第12回目の掲載時に「写真に関する質問」を公募したところ、日本国内のみならず、英語版をご覧の世界中の多くの方々からもご質問をいただきました。本当にありがとうございます。
 「さすがにインターネットはすごい」と改めて驚いた私は、遅ればせながらパソコンを購入しました(まだ、ワープロソフトしか使っていません)。パソコンの世界では、わたしはまだまだ初心者で、カメラと違って私のほうから皆さんに質問したいようなことが多くあって困っています……。

 何はともあれ、数多く寄せられたご質問を私なりに分類し、E-mail で質問を寄せるには至らなかった多くの読者のみなさんもきっと抱かれている筈であろう疑問に、最大公約数的にお答えできるよう考えを巡らせ、3 章に再構成しました。

1. 「ハードウェア」に関する質問

 ここではカメラやレンズ本体に関する質問をまとめました。
 実は、ニコン商品の仕様に関する質問がいくつもあり、それらはニコンのお客様相談室の方々にお願いして、そちらからお答えいただくようにいたしました。
 いくら 35mm(135)判での仕事にはニコンの一眼レフを使うことが多い私でも、あまりにも広範かつ細部を掘り下げた御質問には、答える能力も知識も追いつかない次第で面目もありません。

 さて、「職業:実験写真家」である私は、ミノックス判(8×11mm)から大判まであらゆるフォーマットのカメラとレンズにあまねく愛情を注いでいます。それでいて、カメラやレンズに深く拘泥わる(こだわる)よりも、「もし性能が悪かったとしても、その悪さは悪さとして楽しめればいいや」と割り切るタイプです。
 悪い性能を楽しむ境地にまで使いこなすには、ユーザーとしての能力と知識を身につける必要がありますから、これはこれで楽しいのです。
 とはいえ、「悪ければ悪い程よい」というわけにもいきません。このあたりが実に難しいところかとも….。

1.1. カメラやレンズの清掃と保管はどうすれば ?

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カメラやレンズのクリーニング、保管用品の例

 機材の清掃と保管に関する質問はもっとも多かったです。レベック・ドミニクさん(スペイン)、ビカス・K・Kさん(インド)、西村 淳さん(ラオス在住)、横井一也さんなど多くの方々からいただきました。

 大前提は、カメラやレンズを清掃しなくてもよいように汚損しないことです。
 次に、カメラ等の「使用説明書」を良く読みましょう。清掃や保管についての注意が書いてあります。
 カメラについたホコリや汚れは、まずはブロアー(=ブラシ類は取り外して使わないほうがいいでしょう)、エアゾール式のダストクリーナーなどで吹き飛ばして、柔らかい布(洗い晒しの木綿など)などで取り除くことです。
 ソフトあるいはハードケース、そしてストラップの清掃もお忘れなく。

 レンズ表面は、サービスセンターに清掃を依頼し、さわらないのが一番です。
 レフレックスミラーもファインダースクリーンも、ブロアーでホコリを吹き払う程度にとどめてさわらないでください。
 自己リスクで清掃するときには、レンズクリーナー液などをごく少量、シルボン紙製クリーニングペーパー(=写真用品として市販されています)に含ませて慎重に掃除します。
 あるカメラメーカーでは、レンズクリーナー液にアルコール(エチルアルコール)を使っています。二十年以上前までは、このエチルアルコールに少量のエーテル(=毒性が極めて高く、日本では個人が薬局で購入できません。揮発ガスを吸引しただけでも昏睡します)を混合していましたが、人体の健康に悪影響を及ぼすので全廃したそうです。
 アルコール類は、プラスチック製のレンズ、鏡筒などにつけてはいけません。ボディでは液晶ディスプレイの表示パネル、フィルム(存否)確認窓などの透明なアクリルなども変形・白濁させることがあります。
 市販の写真用品のレンズクリーニング液は、界面活性剤主体の台所用中性洗剤の仲間あるいは石鹸水と組成が似ている水溶液が主流のようです。どちらもたいへん乾きにくいため、シルボン紙製クリーニングペーパーに染み込ませすぎると、かえって拭き跡が残ります。
 クリーニング液をレンズに直接たらしたりするのは論外です。

 また、シルボン紙製クリーニングペーパーのかわりに、ティッシュペーパーのような繊維がすぐにばらばらになりやすい紙を使うのもよくありません。
 トイレットペーパーのような水溶性の紙はもっとよくありません。
 外装の清掃に使った布類を、レンズの拭き取り用に転用してはいけません。

 特に警戒したいのは、木製家具のツヤ出しなどに使われるシリコンクロス(一昔前まではカメラを買うと、おまけに店名入りのシリコンクロスをくれたりしたものです)。木製大判カメラの外枠を別として、写真用品とりわけ写真レンズには絶対使用しないこと。光学性能を低下させます。


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ミクロクロス手袋
写真は三年前に買った「ハンザ」
(近江屋写真用品株式会社)商品ですが、
最新のカタログからは落ちているようです。
同じような手袋は株式会社エツミにもあります。

 メガネの汚れを拭い取る目的で普及した新素材の超極細繊維(東レの「トレシー(R)」など)のレンズ拭きクロス(ワイピングクロス)はかなり使えます。特に、ファインダーアイピースの汚れの清掃などには便利です。
 また、この種の新素材でつくった手袋というのがあって、これを両手にはめてカメラを操作すると、いじればいじるほどにカメラ表面がきれいになっていく(!?)ので、カメラ愛玩家(!?)にもお勧めです。

 こういったクロス類はこまめに洗濯しましょうね。

 現在のカメラは、耐久性にも十分配慮された設計になっていますが、潮風や砂塵にまみれたら放置してはおけません。塩分も塵埃も砂鉄もすぐ払拭しないと。
 まずはブロアー類で吹き飛ばせるものは吹き飛ばして、真水(=化学に詳しい人に聞くと、H2O は、実はかなり強力な溶剤です)をごく少量含ませて固く絞った布でボディを軽く拭きましょう。すぐに乾いた布で、から拭き(乾拭き)することを忘れないで。
 もちろん、有機溶剤は基本的に御法度(ごはっと)です。アルコールですら液晶ディスプレイの表示パネル、フィルム(存否)確認窓などの透明なアクリルを変形・白濁させることがあります。

 また、「なんだか AF 一眼レフカメラがうまく作動しない」時には、ボディやレンズの間にある金色(または銀色)の電気接点を、アルコールを綿棒などに浸して軽く掃除しておくと、接触不良に起因するトラブルをかなり取り除くことができます。
 電気接点の汚れを紙ヤスリや水ペーパーで磨いている人がいますが、これも良くありません。金属表面の酸化を防ぐためのメッキまでも剥がしてしまい、かえって導電性が悪くなります。消しゴムやトレーシングペーパーでこすってもとれない汚れは、サービスセンターなどに持ち込んで清掃を依頼しましょう。

 なお、「現代のカメラには、ユーザーが注油してよい部分はない」と言っても過言でありません。さらに、エアゾールタイプの防錆剤、潤滑剤、電気接点の導通回復剤などには塩素系の溶剤が使われているものがいまなお多くあって、うっかり噴霧すると合成樹脂を侵す(おかす)ので注意しましょう。

1.1.1 カビ対策

 メンテナンスで次に多かったのが、カビ対策への質問。私自身、昔はずいぶん泣かされました。なにせ高温多湿の日本の、そのまた木造二階建ての一階に住んでいましたから……。
 レンズなどに生じる代表的なカビは、ガラス菌(わかりやすくもおそろしげな名前ですね)と呼ばれ、普通のカビよりも比較的乾燥した環境(=湿度60%以上)を好み、しかも比較的低温の摂氏10度から40度くらいというかなり低い温度帯でも発芽するという嫌らしさです。
 そして、人の脂や空気中のホコリなどを栄養分にしては、有機酸を放出するのだそうです。この有機酸とガラスの間でイオン交換が生じ、ガラス表面をも電気化学的に破壊・浸食して条痕を残すのです。怖いですねェ。レンズにつけた指紋はガラス菌の絶好の栄養分になるわけです。
 カビの生育を一番効果的に防ぐには、太陽の下、適度な頻度でカメラやレンズを動かしてやることです。そうすることで、まず、カメラやレンズの内部の空気が新しく入れ代わり、カビの成育をかなり抑えます。
 一眼レフカメラの「使用説明書」にも「長時間使用しないときには、ときどきシャッターをきるよう心掛けてください」とありますよね。
 また、直射日光の強力な紫外線は、カビの成育を妨げるらしいですし。

 機材を長期間使わない時には、まず、カメラやレンズをケースなどから外しましょう。ケース類は湿気を帯びやすく、雑多なカビの発生源になります。ストラップも乾燥しているかチェックしましょう。
 カメラやレンズだけでなく、レンズキャップやボディキャップの汚れもきれいに落とし、風通しがよくてそれでいてホコリ(=カビの栄養分)が付着しない、しかも高温多湿にならない場所(高温環境下あるいは多湿環境下では、フィルムもカメラも劣化します)に保管するといいでしょう。

 市販の防湿庫、防湿ラックなども保管場所としておすすめです。
 ただ、カビを恐れるあまりに、むやみに乾燥させるのも別の危険を伴います。「カメラを乾燥させすぎて、張り革がボロボロに剥落した」といった悲しい話を耳にします。

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「フジカラー カビ防止剤(BCAゲル)」
(発売元:フジカラー販売株式会社)

 手軽で効果的な方法として、台所用品の半透明の密閉ケースに、「フジカラー カビ防止剤(BCAゲル)」と一緒に収納している人もいます。これは社団法人北里研究所が発明したアルファ ブロム シンナムアルデヒドという薬剤です。
 「カビ防止剤」は、有効期限(開封から一年が目安)が過ぎる前にこまめに交換しましょう。
 また、吸湿用に「シリカゲル」を併用するとさらに効果的らしいです。
 チャック付きのビニール袋や同じくチャック付きの冷凍食品保存用ポリ袋も、「カビ防止剤」と組み合わせて機材保管におおいに活用できます。
 ただし、ソフトケースやハードケース類はビニール袋には入れないほうがよいでしょう。ビニールに接したケース表面が変質することがあるそうです。

1.1.2. ホルマリンとナフタリンなどにはご注意

 カビとは直接関係ありませんが、写真機材は木製タンスの類(たぐい)にはしまいこまないに限ります。
 木材を薫蒸したり液浸して殺虫したあとの残留ガス、木材の接着剤から発生するガスには、ホルムアルデヒト系のガスが多く、フィルムにたいへん悪い影響を与えます。また、カメラのグリスなどの油分を変質・硬化させ、メカニズムを固着させる厄介な化学変化を起こします。
 革製品の接着剤からもホルムアルデヒト系のガスが出ることがあります。とりあえず、ホルマリン臭がする新築家屋、家具やカバンには機材を近づけないに限ります。

 そして、衣料の防虫剤(ナフタリンや樟脳)が発するガスもまた同様の悪影響をフィルムと機材に与えます。
 「防虫剤でカビも防ごう(???)」などと思っているひとがいたら、それはとんでもない間違いです。

1.1.3. 電池の話

 最後に、電池の性能・品質、特に日本製電池のそれらは着実に向上しており、昔ほどは電解液の漏れ(=マンガン乾電池でよりも、カメラで常用されているアルカリ乾電池でよく起きます)はなくなりつつありますが、長期保管のときには、外せる電池は外したほうが安心です。

 でも、月に一度は電池を装填して、一通りの動作チェックをしましょう。スピードライト、そしてスピードライト内蔵のカメラは、充電してやりましょう。「月に一度、スピードライトを充電するのとしないのでは、コンデンサの寿命がかなり違う」らしいです。

1.2. 構成枚数が少ないレンズほど画質が良いレンズ ?

 「「構成枚数が少ないレンズの方が、多いものよりも画質はよい」と一般的にいうことができますか ?」 (チェンギィ・ディンさん:アメリカ ?)
 「ええっ ?  本当なの ?」って思いました。こんな難しい問題、考えたこともありませんでしたから。
 一般的には、構成枚数が少ないほど、被写体からの光は光量ロスなしにフィルムまで届くわけですから、素晴らしい発色のカラー写真が撮れそうですよね……。

 でも待ってください。さまざまな収差(色収差、コマ収差、非点収差、ディストーション(昔でいう歪曲収差)、像面歪曲、そして色収差)を取り除くために、そして開放 F 値を明るくするために、といった設計目的があって、お金(コスト)をかけてでも凸レンズだの凹レンズだのの構成枚数を増やしていくわけです。

Fig

AI AF-S Zoom NikkorAI AF Zoom NikkorAI AF Zoom Nikkor
ED 80〜200mm F2.8D(IF)ED 80〜200mm F2.8D<New>80〜200mm F4〜5.6D
14群18枚(うち 5 枚は ED レンズ)11群16枚(うち 3 枚は ED レンズ)8 群10枚

 聞くところによれば、数十年前、レンズ表面にコーティング(増透膜)が施されていなかったり、現在のマルチコーティングのように優れたものではなかった頃は、レンズの構成枚数を増やしていくと透過率がどうしても等比級数的に悪くなったり、レンズ表面が反射した光が鏡筒の中をあっちこっちに内面反射して迷走し、変な角度から再入射してゴーストだのフレアが出て……といったような事実もありました。現在ではそんな問題は信頼できるメーカーの製品ではまずありません。
 また、ゴーストだのフレアだのは、光線状態に応じた適切なフードの選択・装着でかなりまで抑え込むことができます。

 問題はむしろ、「画質」の善し悪しを一般化することの難しさにあります。レンズ画質の評価にはさまざまな基準や尺度があります。収差の問題もそうですし、ピントのシャープネスだけでも、人の目で見た感じと、機械的に測定し計算した値とでは、ぴったり一致することは少ないようです。
 ですから、「○○を××の目的で△△のように写すためには、このようなレンズが好ましい」ということは可能であっても、一般論として「あるタイプのレンズがよい」とはなかなかいえないのが現実です。

 レンズ構成枚数の多寡に話に戻りますが、最近では、通常の光学ガラスを高屈折ガラスあるいは低屈折・低分散ガラス(どちらもおそろしく高価です)におきかえたり、非球面レンズ(材質と加工方法に応じておそろしく高価になっていきます)を使うことで、構成枚数を増やさないでも諸収差を抑え込むレンズ設計手法もあります。どちらにしてもお値段は嵩んでいきます。
 「一般的には、価格相応の画質のレンズが現実に販売されている」と私は感じています。少なくとも構成枚数だけでは画質の予測の目安にはなりません。

1.3. シャッターをチャージしたままで大丈夫 ?

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Nikon F5 のシャッターユニット
シャッターを切るたびに作動をチェックして適切なシャッタースピードになるように自動補正したり、異常を検知するとレリーズをロックする機能などを備えた世界初の「シャッターモニター」を備えています。

 ビカス・K・K さんからは他にも、「フィルムの巻き上げ(シャッターのチャージ)は、(1.)撮影の直前に行うのがよいですか、それとも、(2.)撮影直後に巻き上げて、次に撮影する時までそのままにしておいても大丈夫ですか…… ?  と申しますのは、(2.)だとシャッター機構に負荷が掛かりっぱなしになって駆動バネがヘタってしまうのではないかと思うから」という意味の質問をいただきました。
 「6 ヶ月ほど撮影間隔が空いてしまったことがあるのだが」と心配されておられます。

 面白い質問だと思って採りあげたのは、ビカスさん愛用のニコン一眼レフカメラは手動巻き上げ機らしいのですが、現在では各社とも主流の自動巻き上げ式のカメラの場合、シャッターを切った直後にフィルム巻き上げとシャッターのコッキングが開始され、常にシャッターはチャージされた状態にあるからです。もしもビカスさんの心配が適中するとしたら、各メーカーはユーザーの利便を計るために、あまりうまくない設計をしているということになります……。

 識者によると、現在のシャッター機構を構成する部品・部材の性能・品質は着実に向上しており、さらに設計自体にもより工夫がなされており、6 ヶ月ほどで指摘のようなへタリが生じ、それが描写に影響するまでに至ることはまずないだろうと考えていいようです。
 とはいえ、ビカスさんの指摘は、冶金工学や電子工学が発達していなかった昔には常識であって(=クラシックカメラ愛好家にとってはいまなお問題でしょう)、いまなお俗耳に入りやすいことも確かです。

 あわせて、「使用説明書」に書いてあるように、「1〜2 年に 1 度は定期点検を、3〜 5 年に 1 度はオーバーホール」に出すことをお忘れなく。プロの写真家は、使用頻度にあわせて早め早めに点検・オーバーホールに出しているものです。

2. 「マン・マシン・インターフェイス」に関する質問

 カメラとユーザーの関係性(境界)で生じる問題がいくつかあります。
 カメラは正常でも、ユーザーが間違った操作をすれば、間違った答えがでることは当然です。また、カメラは正常に作動しているのに、ユーザーは別の結果を期待しているようなこともあります。もちろんカメラの故障ということもあるでしょうが、そちらのほうがかえって発見も修理も簡単だったりします。

2.1. 露出がうまく合っていないような気が ?

 「主に撮影するのはサッカーです。「オートピクチャープログラム」で撮影していたのですが、望遠を使っているので、さすがに手ブレのせいで良い写真が撮れません。先日、日昼に「動体」モードにして撮影したところ、逆光のせいか顔などが黒くつぶれたように写りました。フィルムは ISO 400 です。カメラの性能や特性のせいでしょうか。このような時は、どうしたら良い写真が撮れるのでしょうか。また、ナイターなどの撮影に関しても(アドバイスを)お願いいたします」(芝田さん)。
 こうした露出の悩みは他にも、横井一也さん、高橋睦明さんなどよりいただきました。
 このような質問をする場合、多くの人はまず言葉で伝えようとするのですが、結局は要領を得ないことがほとんどです。なぜかというと、実物の写真がないと、撮影現場の細部および失敗の原因といったものが、さっぱり判らないのです。それどころか、他人の目から見たらそれは失敗でもなんでもなく、意外に面白い表現の可能性を秘めていることも稀ではありません(カメラのトラブルの場合も同じです。実物があるのとないのとでは説明するときに大違いですよね)。

 さて、芝田さんの逆光で撮られたという写真は彼のホームページにて拝見しましたが(=すみません。プロ選手が写っており、ニコンのホームページへの転載は見合わせました:担当)、カメラまたは人為的な露出ミスかどうか ?、というのは、なかなか難しい判断です。

 まず第一に、このような光の状況で、一般的なカメラなら、こういう具合に写るのが “基本” だからです。
 また、主要被写体があれだけ遠方に離れている場合には、芝田さんがご愛用の A 社製 AF 一眼レフの誇る「オートピクチャープログラム」(=撮影倍率と被写体の前後の動きなどの撮影状況に応じて、プログラム AE のモードをカメラが自動選択してくれるという初心者にも便利なモード)任せの撮影はあきらめて、最初から「動体モード」(=ニコンの AF 一眼レフのイメージプログラムでいえば「スポーツモード」のようなモード)をご自分で選んで、少しでも速いシャッターを切ろうとされたご判断も的確だとおもいます。

 次に、私の眼からすると「よく撮れている。いい作品ですね」といった感想を持てる写真だからです。でも、この現場を自分の眼で見ていた芝田さんからすると、「こんなに顔半分は黒くなかったはずだ」と思えるのでしょうね。きっと……。

 原因はただ一つ。逆光にあります。しかも影の強さから見て、かなり良い天気だったはずですから、光の当たっている部分と影のコントラストが見た目以上に強く写っています。この場合、露出をオーバー気味に補正して撮ったとすれば、陰になった顔の半分もより明るくなり、背景の芝生ももっと明るく描写されます。で、どちらが良いのか……?  これは芝田さんご自身が決めることです。
 カラーネガフィルム、リバーサルフィルムいずれの場合でも、再度プリントを作成し、全体的に明るくプリントしてもらったのと見比べてください。次の撮影に活かせるはずです。

 ナイター撮影については、私自身ほとんど経験がなく、良いアドバイスはできませんが、J1 レベルの試合がおこなわれるスタジアムなら、グラウンドは周囲全体からあまねく照明されているため、このような影は目立たないのではないでしょうか。ISO 800〜1,600 といった高感度フィルムを使うことからスタートするといいでしょう。
 
 それから昼夜を問わず、望遠レンズを使っての手ブレを抑えるために、手持ちで撮るよりは、一脚を活用しましょう。三脚よりも取り回しが楽で、周囲の方々にも少しでも迷惑をかけにくい一脚が便利です。雲台は自由雲台が使いやすいでしょう。多くのスポーツフォトグラファーたちも使っているのをスタジアムでご覧になったことがあるはずです。

2.2. 被写界深度をファインダースクリーン上で見極めたい

 前述のビカス・K・K さんはさらに、「レンズの最小絞りまでの被写界深度を、一眼レフカメラのファインダースクリーン上で確実に視認する方法」をお訊ねです。
 「被写界深度」とは、ピントを合わせた前後の被写体にもピントがあっていると見倣(みな)せる範囲のことです。レンズの焦点距離や絞り値、撮影距離に応じて変化します(第 4 回目の 1.1.、そして第 6 回目の2.2. 参照)。
 絞り込みボタンやレバー、あるいはプレビュー機能のついた一眼レフカメラなら、これらの機能を使用して、実際に絞りを絞り込んでいくことで、ファインダースクリーン上でこの被写界深度の変化を視認することができます。
 しかし、ビカスさんの指摘のように、絞りを絞り込めば絞るだけ、ファインダー像はどんどん暗くなってしまい、最小絞りに近づけるにつれて被写界深度を視認することはどんどん困難になっていきます。
 室内撮影であれば、どんどん照明をふやしていく作戦もありますが、あまり実用的ではありませんね。

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大判カメラの冠布(かぶり)

 実は、この悩みは大判カメラを使った撮影にはつきものなのです。大判カメラの世界では、f/64 まで絞ることがざらにあります。
 ですから、大判カメラなどの撮影で使う冠布(かぶり)のようなものを使ってファインダーと目の隙間から差し込む光を遮れば、絞りを絞り込んでもかなりの暗さまで見えるようになります。手軽にはアイピースをカップ型のものに交換したり、手で覆うようにするだけでもずいぶん効果があります。
 さらに、ファインダースクリーンが交換可能な一眼レフであれば、大判カメラのピントグラス(ファインダースクリーン)がそうであるように、全面マットのファインダースクリーンに交換するなどの工夫もしてみてください。

 なお、絞りを絞った時のファインダー像の見掛けの被写界深度と、実際にフィルムに写した像のそれは異なります。これは、主にピントグラス(ファインダースクリーン)の性質に依るものだそうで、ファインダー像の方がほんの少しだけ被写界深度が深く見えるケースが多いようです。
 特に、この原稿を書いた時点で調べてみたのですが、いくつかのメーカーの低価格帯(いわゆる “入門機” )の135判 AF 一眼レフには、いわゆるペンタ部に光学ガラス製プリズムのかわりにプラスチックミラーを使うことで軽量化とコストダウンを図っている商品が多いのです。
 また、ファインダースクリーン像を少しでも明るく見せかけたいからでしょうか、素通しに近いスクリーンを装備している商品が存在します。これではせっかくの一眼レフとはいえども被写界深度の視認はかなり困難です。
 やはり、被写界深度に厳密さと確実さを求めるなら、単焦点レンズの「使用説明書」にはよく載っている「被写界深度表」と巻尺を携帯するのが……。
 まあしかし、そこまで厳密になる必要があるのかないのか、いかがでしょう ?

2.3. レンズの選び方の基本を知りたい

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Nikkor Lenses

 レベック・ドミニクさん、田中 博さん、越智 隆弘さん、竹中 久美子さんは、レンズの選び方についてのあれこれを質問されています。
 レンズの焦点距離別の分類と特長は、第 2 回目でひととおり述べました。
 しかし、「同一焦点距離で開放 F 値が異なるレンズでは、どちらを選ぶか ?」、「同一焦点距離でしかも同一開放 F 値で、レンズ駆動方法が異なるレンズでは、どちらを選ぶか ?」といったご質問には、お答えに困ってしまうのが正直なところです。
 なぜかというと、カメラと同様、あまりにも多くの種類があり、価格も、大きさや重さの他、もちろん性能もさまざまなものばかりだからです。皆さんにも皆さんなりの、撮影対象、目的、ご予算、そして欲する画質があるでしょう ?

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AI AF-S Zoom NikkorAI AF Zoom NikkorAI AF Zoom Nikkor
ED 80〜200mm F2.8D(IF)ED 80〜200mm F2.8D<New>80〜200mm F4〜5.6D

 こういう具合に考えてみるのもいかがでしょう ?
 写真コンテスト、写真雑誌のコンテストの入賞作品などにはたいてい撮影データが付記されています。自分が撮りたいような写真があれば、それがどのようなレンズで撮られているかをつぶさにチェックしてみるのです。これをしばらく繰り返せば、「だいたいこんなレンズでは、こんなシチュエーションでこのようなイメージの写真が撮れるのだ」ということがなんとなく理解できてくるはずです。

 それからもう一つ。例えば、「中望遠レンズはポートレート向き」というような「定説」というよりも「常識」がありますが、それらを逆手にとってみることによって、意外な発見があることを忘れないでほしいものです。第 1 回目に紹介したピンホールや、第 2 回目に紹介した虫眼鏡レンズでも、それなりの魅力があったはずですし。

3. 「ソフトウェア」に関する質問

 ここでいう「ソフトウェア」とは、写真を通した人と人の関係、あるいは、写真をどのように使うか、はたまた写真と私たちの関係はどうあるべきか、といった意味です。
 読者のみなさんの質問が期待されているものとは少し違った内容になるやもしれませんが、これらの質問に対して私の思うところを述べます。

3.1. 子供や家族をいい表情で撮りたい!

 佐藤 由佳さん、田中 直人さんからは、このような質問を受けました。もちろんテクニックもいろいろあるのですが、ここではあえて技術的な話は抜きに考えてみます。

 「写真は関係性の芸術である」だと言われることがあります。写真は撮る人と撮られる人の関係性によって、できあがる作品が違ってくるのです。たとえば、写真を撮る人が緊張していたらモデルの側も緊張してしまったり、あるいは写真を撮る人が怒ればモデルは萎縮したり逆に腹を立てたりして、それらが写真にダイレクトに反映するのです。
 ですから、写真を撮ったり撮られたりすることをお互いに楽しめるか楽しめないかで、仕上がる写真は大きく違ってきます。

 私は時折、一般の人が子供や家族を写す際、周りの人の眼を気にしすぎるあまり、写真撮影をあまり楽しんでいないのではないかと思うことがあります。それと同時に、写真を堅苦しく考えすぎているのではないかとも思うのです。「こうあるべきだ」、というのではなくて、「こんなんでもいいじゃないの」とちょっと開き直ってみるくらいでちょうどいい感じになるように思うのですが。

 ひとつだけアイデアを。フィルムを 1 本準備し、子供なら子供、家族なら家族とテーマを決めて、その一本丸ごとを使って撮影します( APS (アドバンスド・フォト・システム:IX240判)カメラで、撮影途中のフィルム交換=ミッドロールフィルムチェンジ(MRC)機能を搭載した機種だと、より好適です)。
 ただし、同じポーズはできるだけ撮らないようにするのがルール。少しずつポーズを変えたり、衣装を変えたりといろいろなアイデアを皆で出し合います。写真を撮るために、皆で演技を楽しむような感覚になれば楽しいですよ。友人に知人に参加してもらうと、観客がいるようでもっと楽しめるかもしれません(友人知人にはちょっと迷惑かもしれませんが……。でも、撮り終わった後で飲むビールやお茶は最高においしいはずです)。

3.2. 他人の作品はよく見えるのに、自分のはなんだか……

 堺 信夫さんからは、このような質問が届きました。この気持ちとてもよく分かります。私もそうなんです……。もしかすると、どれほど自信のある写真家でもこういう「他人が皆、われより偉くみゆる」気分に陥ることはあるんじゃないかとも思います。
 以前にも書きましたが、写真は基本的に四角く囲まれた平面の画像でしかありません(番外篇 2. の 3.参照)。匂いも空気感も、湿度も気温も、そのままでは写真に記録されません。しかし、私たちは写真の画像によってそれらを想起することができます。これは写真を見る私たちに想像力があるからです。特に、わけのわからないものを見たときに、私たちは想像力をフルに発揮するようになります。つまり、情報量の少ないもの、あるいはその反対に情報量が多すぎて何がなんだか判らなくなるような、そんな写真には、多くの謎、ミステリアスな魅力といったものを私たちは感じるものです。

 こうした視点から考えると、自分の作品に関しては、基本的に全てを自分自身で知り尽くしています。何をどんなカメラやレンズやフィルムで、どのようにしてどのような意図で撮影したかを全て理解しています。しかし、他人の作品に関しては、こうした情報はほとんどの場合、かなり都合よく隠されているのが普通ですから、結局、「他人の作品の方が自分のよりもどうしても良く見えてしまう」わけです。
 ですから、こうした時には、その作品に隠されたさまざまな情報を、自分なりに想像し、理解するよう努めることで相対化を図るのが一番です。自分の次の撮影にも役立てられるはずです。

3.3. プロになるには? 写真学校ってどんなところ ??

 岡部 敏明さんからの質問です。「税務署に提出する確定申告の用紙の職業欄に「写真家」と書けば、あなたもプロの写真家 !」という言い古された冗談もありますが、この職業は、一部を除き国家資格だのなんだのを必要とする職種ではありませんから、写真学校に通わなければなれないというものではありません。
 プロになりたいなら、とにかくその現場に飛び込むのが一番でしょう。

 私の知り合いによると、「入社 2 年目の男性が突然「やっぱり私は自衛隊でカメラマンになります」と言い残して退社。陸上自衛隊に入隊して10歳近く年下の隊員たちに囲まれての猛訓練をこなし、ついには初志貫徹して写真中隊に配属されたって報告のグリーティングカードが届いた」という夢のような話があったそうです。なんだか勇気づけられますね。それにしても「写真中隊」っていう部隊があったんですね。

 それはさておき、写真学校には、技術に重きをおいているところや、表現に重きを置いているところなどさまざまな個性があります。こうした個性は、卒業した後になって改めて回顧してみないことには何が何だか判らないものであったりもします。「どの学校を選ぶか」も、ひとつの冒険なのですね。
 写真学校で学ぶことのいいところは、教鞭をとる先生たち(=多くの場合プロとして活躍している人たちです)や意思を同じくする友人たちと多く出会えることです。
 それから、いきなりプロになるよりは余裕をもって「写真とは何か」を考えることができることにあると思います。
 
 さて、現在では、銀塩写真だけでなく画像処理といったデジタル技術をも含めた学科に変貌しているところも少なくないようです。私が講師をつとめているところでもそうです。これから何年か先には、もっと状況は変わっているものと思います。

 また、最近では、写真学校というのではなく、カルチャーセンターのようなものや、写真家の開催するワークショップ、日本カメラ博物館や美術館や公民館などで開催される写真講座なども非常に増えてきました。
 ニコンでも、「ニコン塾」(「写真講座」、「カメラ使い方教室」など)がありますね。
 こうしたさまざまなチャンネルを覗いてみるのも、一つのステップになるように思います。

4.0. 連載のおわりに

似顔絵 さあ、これでいよいよお別れです。実は前述したパソコンではじめて書いてみた原稿がこれなのです。やっと少し慣れてきたように思いますが、失敗とイライラの連続でした。誤操作で原稿が半分消えてしまったときには正直がっくりしました。ただ、なんとはなしに、カメラというマシンが一昔前に先人を驚愕させたことと、今現在、私たち(私だけ ?)がパソコンというマシンに驚いていることとが妙にシンクロしているような不思議な感慨にふけっています。
 では、皆さんご機嫌よう。どこかでお会いできたらいいですね。
 さようなら。

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