第3 回目 フィルムは光の記憶装置

似顔絵 どんなに高性能なカメラでも、フィルムが無ければ写真は撮れません。これは常識のはずです。
 最も一般的に使われている35ミリ(135)判フィルムには、非常に多くの種類があります。撮影目的に適したフィルムを選んだり、特殊なフィルムを使って撮影することで、写真の楽しさは何倍にも膨れ上がります。

 3 回目の今回は、フィルムの選び方の基本を整理すると共に、ちょっと変わった面白フィルムをいくつかご紹介いたしましょう。

1. 35ミリ(135)判フィルムの使い方の基礎

 35ミリ(135)判フィルムは、現在、プロからアマチュアまで、もっとも多く使用されているフィルムフォーマットです。
 もともと映画(ムービー)用に作られたフィルムで、スチル写真の撮影に使用されたのは1913(大正2)年、映画撮影の露光テスト用のカメラが始めてだということです。
 ご存じの方も多いでしょうが、1925年に35ミリ判精密カメラである「ライカ」が発売されたのが大きな契機となって、このフィルムもまた広く普及するようになりました。いまなお日本の年配の方には、135判フィルムのことを「ライカ判」と呼ばれる方がおられますが、こうした歴史の名残(なごり)といっていいでしょう(日本でだけ120判フィルムをコダック社の同名のカメラの名残で「ブローニー判」と呼ぶのと同じ趣きですね)。

 当初は、現在のようなパトローネ(円筒形のケース。カセット、マガジン、カートリッジともいいます)に入った状態では小売りされてはいませんでした。写真を撮る人は、平たい金属缶に入った長尺のフィルムを購入しては、暗室の中で自分で裁断して、カメラごとの専用マガジンに装填していたようです。

 後に、コダック社がパトローネに詰めたフィルムを商品化してからも、長尺フィルムの詰め替えは割安とあって、なかなか衰退しませんでした。
 現在でも、種類は限られますが、100 フィート(約 30.5メートル)巻き(メーカーによっては 30メートル 巻き)の長尺フィルムは発売されており、ご自分でパトローネに装填して使っている方もおられます。二十年以上前に写真を始めた方、活動予算の乏しい写真部におられた方なら、長尺のモノクロフィルムを自分で切ってはパトローネに装填した暗室作業の記憶のある方は少なくないはずです。
 また、長尺フィルムは、「ニコン F」、「F2」、「F3」、「F4」で、250コマ連続撮影をされる方にも愛用されています。
 さて、ちょっと無駄口がすぎましたか…….。

1.1. 35ミリ(135)判フィルムのパトローネを分解してみると……

 フィルムを直接光に当ててしまうと駄目になってしまいます。これは常識中の常識でしょう。ですから、なんとなく「フィルムというのはよく判らない」と思われる方は多いはずです。
 では、ちょっと無謀ですが、35ミリ判フィルムのパトローネを分解してみましょう。中身はどうなっているのでしょうか ?
 もちろん、こんなことをすれば未現像のフィルムは使い物にならなくなってしまいます。どうでもいい、捨ててもかまわないフィルムを使ってください。簡単なつくりですが、漏光防止の工夫など意外に非常に良くできていてびっくりするはずです。

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<写真 1.a.>
家庭にある栓抜きでパトローネの蓋を開けます(近年の蓋は、かなり堅くカシメてあります)。

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<写真 1.b.>
パトローネから中身を取り出します。

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<写真 1.c.>
長いフィルムが “くるくる巻き” になっています。
艶の無い面には感光剤の乳剤が塗布されています。
この “乳剤面” が、カメラの中ではレンズ側になります。

 さて、フィルムの端(リーダー部)を巻き込んでしまい、なんとか引き出したいと困った経験はないでしょうか(使用前や撮影中のフィルムをうっかり巻き取ってしまったりね)?
 こんな時には、「フィルムピッカー」(写真用品店で販売しています。いくつかのタイプがありますが、1,500 円(消費税別) 前後)と呼ばれる道具を使えば、実に簡単に、フィルムの端を引き出すことができます。一個、持っておくと思わぬ時に役に立ちます。
 もっとも、懇意の親切な写真店さんに持ち込めば、タダでやってもらえることも…….。

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<写真 2.a.>
フィルムの端を巻き込んでしまっても……。

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<写真 2.b.>
「フィルムピッカー」を使ってチョチョイのチョイと…….。

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<写真 2.c.>
まるで手品のようにフィルムの端を引き出すことができます。

1.2. 35ミリ判フィルムの装填と感度の設定

 最近の自動巻き上げ(オートワインディング)式の35ミリ判カメラは、フィルム装填や感度の設定も自動的におこなってくれる(前者はオートローディング、後者はDX対応)タイプが多くなりました。ですから、まあ、なんということもなく、「使用説明書」を読み、一度やれば誰にでもできます。フィルム巻き上げがマニュアル式のカメラでも、たいした困難はないはずです。
 ただし、直射日光の下でフィルム装填を行うと、光がフィルムのパトローネの出入口から迷い込んで入ってしまうことがまれにあります。日陰で装填するほうが無難です。
 また、特殊なフィルムの中には、暗室で装填したり、感度設定を自分でセットしなければならないタイプもあります。

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<写真 3.a.>
このカメラでは、フィルムの端をマークに合わせて裏蓋を閉め、シャッターボタンを押せば、自動的に装填され、感度も自動的に設定されます。

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<写真 3.b.>
フィルム感度を自動設定する DXコード(黒と銀)と、それを読みとるカメラ側の端子(電気接点)。
特殊なフィルム、そして発展途上国製フィルムの一部には、パトローネに DXコードを付していないものがあり、自分で感度を設定しなければなりません。

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<写真 3.c.>
フィルム巻き上げが手動のカメラでは、一般にスプール(巻き取り軸)にフィルムの端を差し込み、自分で巻き上げます。

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<写真 3.d.>
フィルム感度を自分でマニュアル設定するタイプのカメラ(写真では ISO 100 に設定)。
感度を正しく設定することではじめて、標準的な正しい露出値が得られます。

1.3. フィルムのパッケージをじっくり読む

 フィルムのパッケージにはさまざまな情報が記されています。一般的なカラーネガフィルムでは、かなり省略されているものが多いですが、記載内容を隅から隅まで読むことで意外な発見もあります。特に、はじめて使うフィルムの場合には、しっかりと読むようにしてください。
 はじめのうちはワケが判らない内容も多いでしょうが、一通り目を通しておけば、必ず役に立つ日がきます。

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<写真 4.a.>
使用期限と製造(乳剤)番号:
私の経験では、フィルムは適正に保管すれば使用期限を多少過ぎていても写りますが、美しい画像を得るためにはできるだけ早く撮影し、間髪を入れずに現像すべきです。
製造(乳剤)番号の同じフィルム同士の品質・特性は同じはずです。

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<写真 4.b.>
露出の目安表:
露出計のないカメラではこれを参考にします。
試しにこのデータでマニュアル撮影してみるといいでしょう。
意外なほど “当たる” ものです。

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<写真 4.c.>
取扱上の注意点:
高温な場所に保管することは絶対に避けてください。
使用期限内でも画質の悪化などのトラブルの原因になります。
プロ用および特殊なフィルムは、冷蔵庫か冷凍庫での保管が基本です。

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<写真 4.d.>
使用説明:
リバーサルフィルムやプロ用のフィルムでは、かなり詳しいデータが記載されています。
ワケが判らなくても、一通り目を通しておいてください。必ず役に立つ時がきます

2. フィルムの豊富な種類

 日本で現在市販されているフィルムは、非常に多くの品種があり、選ぶだけでも大変です。原則として、35ミリ(135)判の規格であればどのフィルムでも、35ミリ一眼レフカメラで使用できます。APS(IX240判)の規格であればどのフィルムでも、APS(IX240判)一眼レフカメラで使用できます。
 また、大雑把にいうなら、同じ種類で同じ感度のフィルムであれば、信頼できるメーカーのものでさえあれば、そんなに大きな違いはないと達観していいとおもいます。
 もちろん、細かな違いはいろいろあるのですが、同じ被写体を同じ条件で撮影し、条件を揃えたプリントを作成し、直接見比べてやっと判る程度の違いです。
 ですから、気兼ねなくいろいろなフィルムを使ってみてください。その上で、自分の目でフィルムの個性を理解するように心掛けるといいとおもいます。

2.1. APS と35ミリ判フィルム

 1996(平成8)年に新発売の、日米のフィルムメーカー・カメラメーカー 5 社が共同開発した新しい写真のシステムが、昨今話題の APS(アドバンスド・フォト・システム:IX240判)カメラおよび APS フィルムです。
 既存の35ミリ(135)判のシステムと何が違うのかというと、一般ユーザーにとっての使いやすさを追求したシステムが、APSであると言っていいでしょう。

  • フィルム装填がより簡単に、
  • 3 種(標準(タテヨコ比 = 2 : 3)、ハイビジョン(同 9 : 16)、パノラマ(同 1 : 3))のプリントサイズから自由に選べる、
  • 原則としてフィルムに直接手を触れることがないシステムなので、傷やカビなどのトラブルをかなり抑制できる、
  • カメラによっては、フィルム面上の磁気トラックによるデータ管理が可能、(撮影途中の交換(ミッドロールフィルムチェンジ=MRC)も可能)
  • フィルムサイズがやや小型なので、理論的にはカメラやレンズも小型化できる

などなど、さまざまなメリットがあります。

PRONEA S

<写真 5.a.>
「ニコン PRONEA S」
35ミリ判AF一眼レフなみの機能を備えた APS のAF一眼レフです。
1998年の9月に発売されました。
なんと購入者の 4 割近くは女性とのことです。
APS 専用の小型・軽量の「IX ニッコールレンズ」群に加えて、35ミリ判の「AI AFニッコールレンズ」群を装着できます。

 APS のAF一眼レフも、この項を執筆した時点で日本の 5 社から出揃い、今後への期待は大きいものがあります。

 うち、レンズ交換可能な APS(IX240判)AF一眼レフカメラは、日本の 3 社から発売中です。
 ニコン(「 PRONEA S」、「PRONEA 600i」)を含む 2 社の APS(IX240判)AF一眼レフカメラは、各々の会社製の35mmAF一眼レフカメラ用交換レンズをそれぞれ装着できます(残る 1 社のAPS一眼レフカメラも、その会社製の35mmAF一眼レフカメラ用交換レンズを、サービスセンターでのみ対面販売する「コンバーター」を介して装着できるそうです。絞り込みAE撮影 & フォーカシングはマニュアルになるそうです)。

 このように、各社とも、既存の35ミリ判システムとの互換性を、程度の差はあれども考えていますので、遊びを兼ねた実用性をメインにおく場合には、APS カメラボディを使い、趣味的な撮影や仕事上の特殊な要求がある場合には、35ミリ判カメラボディ……といった具合に、使い分けることもできます。
 とはいえ、現在のところ、APS フィルムの品種はかなり限られています。一般ユーザーにとっては充分な種類は揃っていますが、このあと紹介するようなさまざまな特殊なフィルムを使って描写の違いなどを楽しむためには、当面の間はやはり35ミリ判が一番なのでしょう。

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<写真 5.a.>APS フィルム
フィルムの使用状況を確認する “窓” が、プラスチック製のカートリッジ上面にあります

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<写真 5.b.>APS フィルムと
インデックスプリント
プリントの注文は、専用の用紙でおこないます。

2.2. カラーリバーサル、カラーネガ、モノクロネガ、新しいモノクロフィルム

 現在市販されているフィルムは、この 4 種類に大別できます。それぞれの特徴をざっと整理しておきましょう。

2.2.1. カラーリバーサルフィルム

 ”カラースライドフィルム” とか “カラーポジフィルム” などと呼ばれることもあります。一般的にはスライド上映用のフィルムとして知られているはずです。現像を終えたフィルムは陽画(ポジティブ)で、被写体の明るさや色が正しく写っており、透過光にかざして観察します。
 撮影時の露出やフィルター調整などがそのまま反映されますので、写真で表現したいと思うユーザーにはうってつけのフィルムです。また、プリントを作成しないでも陽画で鑑賞でき、カラー印刷の原稿としてフィルムスキャナーに掛けるのにも最適で、特にコマーシャル写真家などに愛用されています。
 しかし、これを逆にいうと、撮影時に露出を適正に、色温度などフィルター補正もしっかり行わなければなりませんし、何よりプリントを作成するとなると、インターネガを起こすにせよダイレクトプリントを選ぶにせよ、高価でかつ時間もかかります。
 このため、一般ユーザーに適したフィルムとはいえないかもしれません。
 しかしながら、ぜひ一度だけでも試しに使っていただきたいフィルムです。なぜかというと、仕上がりの色がとても美しいからです。リバーサルフィルムを使って撮影するだけで、まるでプロが撮影したようなきれいな画像を得ることができます。写真の美しさにきっと目覚めるに違いありません。最近のオートカメラなら、何も考えないで撮影しても O.K. 。ただし、購入の際には基本的に「デーライトタイプ」と表示されているものを選んでください。


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<写真 6.a.>
コダクローム以外のリバーサルカラーフィルムは、基本的に「E-6」と呼ばれる現像処理がおこなわれます。


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<写真 6.b.>
仕上がりの例。

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<写真 6.c.>
リバーサルカラーフィルムからプリントを作成することもできますが、やや高価で時間もかかります。

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<写真 6.d.>
デーライトタイプのリバーサルフィルムの例。
ほとんどのフィルムはこのタイプで、太陽光やスピードライトで撮影した時に正しい色が再現されます。

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<写真 6.e.>
タングステンタイプのリバーサルフィルムの例。
品種は少ないですが、太陽光と比較して色温度の低い(=赤い)写真用電球(電極がタングステンのランプ)で撮影するためのものです。

2.2.2. カラーネガフィルム

 最も一般的に使われているフィルムです。
 現像したフィルムのベース上には、被写体の白黒が逆に、色は補色に、つまり陰画(ネガティブ)で記録されています。
 これを陽画にプリントすることで、はじめて被写体の明るさや色が正しくなります。
 プリントとは、ネガフィルムの画像を印画紙に撮影しなおす作業です。つまり、プリントする過程で、写真の明るさや色を自在に調整できるのが大きな特徴です。このため、撮影時の露出やフィルター調整が間違っていても、プリントで補正することができます。最近では、いわゆるサービス判、そしてサービスキャビネ判などのプリントは極めて安価になりましたから、一般ユーザーには特に便利なフィルムと言えます。

 しかし、これを逆に考えると、自分の考えで露出補正やフィルター調整をしても、その意図が反映できずにプリントされれば、元の木阿弥(もくあみ)になります。満足できるプリントは、なかなか得られません。

 詳細は7月の第9回目「プリントの基礎知識」でご紹介しますが、カラーネガフィルムからのプリントの明るさや色の仕上がりに満足できない理由のほとんどは、フィルムの性能のせいでも、皆さんの腕のせいでも、カメラやレンズのせいでもありません。多くはプリント作成時の調整の問題なのです。


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<写真 7.a.>
現行のカラーネガフィルムは「C-41」プロセスと呼ばれる現像処理がなされます。


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<写真 7.b.>
被写体の白黒が逆に、色は補色に記録されています。
フィルムベースが橙色をしているのは、色再現をよくするためのマスキングと呼ばれる技法によるものです。

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<写真 7.c.>
プリント。非常に安価なものから、高価なものまで各種あります。
高価なプリントは人件費、要するにプリント技術者の腕とセンスに支払っていると考えてください。

2.2.3. モノクロフィルム

 一昔前までは「写真の基礎はモノクロ」などと言われていましたが、昨今では非常に影が薄い存在になりました。なにしろ、日本の新聞社の殆どでも、掲載紙面はモノクロであっても取材撮影にはカラーネガフィルムを常用しています。
 使う人がもはや多くありませんから、”カラーネガフィルムの「C-41」処理を速く・廉価に” と、進化しつづける現行の DPE システムの枠外に置かれてしまい、モノクロフィルムの DPE 処理を頼むと費用と時間が驚くほどかさみます。
 いまや、少し贅沢なフィルムになってしまったといっていいかもしれません。  しかし、画像の耐久性・安定性(保存性)はカラーフィルムよりも格段に高く、またモノクロならではの味わいもあります。
 特に、自分で現像したりプリントを作成したりすることはカラーよりも簡単ですから、写真を本格的に趣味でやりたい方は、やはりモノクロから入門するのが一番でしょう。


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<写真 8.a.>
モノクロフィルムのパッケージには基本的な現像処理の方法が記されています。
自分で処理することも割合簡単です。


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<写真 8.b.>
モノクロネガの例。
被写体の白黒が反対に写った陰画です。
被写体の色は、人の目で見た濃淡に近く再現されるように工夫されています。

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<写真 8.c.>
モノクロプリントの例。
色彩がないので、かえって想像の余地が広がり、独特の世界が開けます。

2.2.4. 新しいモノクロ調(カラー)フィルム

 日本で数年前に大ブームになった「セピア調」プリントの火付け役になったフィルムです。実をいうとこれは、カラーネガフィルムのバリエーションで、色が写らないというか単色のカラーネガフィルムといえば判りやすいでしょうか。
 現像処理もカラーネガフィルムと共通の「C-41」処理プロセスなので、カラーネガフィルムとほぼ同じ処理時間と料金を設定できるのです。
 前述したように、モノクロ写真がカラー写真よりも珍しい存在になり、D.P.E. 処理を頼むと高価につくようになった現在、より手軽にモノクロ調写真を楽しむのに便利です。このネガフィルムから通常のモノクロプリントを作成することもできます。

 しかしもちろん、このネガフィルムから天然色(フルカラー)のカラープリントを作成することはできません。どうなるかというと、単一色(モノトーン)のカラープリントができるわけです。この単一色を黒でなくセピア調にしたのが、いわゆる「セピア調」プリントで、これはカラープリントのバリエーションの一つです。原理的には、どのような単一色(赤や緑や青など)のカラープリントでも作成できます(詳細は7月の第9回目に紹介します)。


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<写真 9.a.>
新しいモノクロ調フィルム(セピア調フィルム)の例。


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<写真 9.b.>
ベースの色が通常のモノクロフィルムのようなタイプもあります。

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<写真 9.c.>
セピア調プリントの例。現像所や時期によって、セピア調といってもいろいろな色があることを発見できます。

2.3. ISO 感度って何?

 フィルムには感度があるということはご存じでしょう。フィルムのパッケージに大きな数字で「100」とか「400」とか「1600」などと記されているのが、フィルムの感度です。
 よくみると「ISO 100 / 21°」などと表示されています。これは、国際標準化機構 ISO の定める規格に準拠しているという記載であって、メーカーによる違いなどは一切ありません。
 「ISO 100 / 21°」のスラッシュの前の数値の「100」(もとは ASA と表示されていました。これはアメリカが起源の規格)と、後者の「21°」(こちらは昔のドイツ工業規格で、もとは DIN と表示)とは、表示の仕方が異なるだけで、意味は同じですから、スラッシュの前の方の数値にだけ注目してください。単純に、数値が大きいものほど感度が高い、つまり弱い光にも感じる性能をもっています。

 この数値にも実は深い意味があります。おおざっぱに言えば、アメリカ本土のように四季がはっきりした緯度帯の国・地域(西欧の大部分と日本も含まれます)において、盛夏と厳冬でない季節(春 or 秋など)の晴天・順光の条件で撮影するときに、

  1. レンズの絞りを “f/16” にセットし、
  2. “感度の数値分の 1 秒” のシャッタースピードで撮影すれば、
  3. おおむね適正な露出になるようなフィルム……

という考え方で、フィルムの感度の数値を各々設定したのが、前述の ASA 規格の基本理論だといわれています。

 つまりこの理論を覚えておけば、晴天・順光の条件で露出計もフィルムパッケージあるいはその使用説明書もないときには、

  1. レンズの絞りを “f/16” にセットし、
  2. ISO 100 のフィルムならば 1 / 100 秒、ISO 400 のフィルムなら 1 / 400 秒のシャッタースピードを選んで撮影すれば、
  3. かなりの確率で適正露出になる……。

わけです(「ニコン F5」と「 F100」のようなシャッタースピードを 1 / 3 段刻みでも設定できるカメラをお使いではない場合には、ISO 100 のポジフィルム(リバーサルフィルム)なら 1 / 125 秒、ISO 400 のポジフィルムなら 1 / 500 秒で撮ってみてください)。

 では、「フィルムの感度は高ければいい」のかというと、いちがいにそういう話でもありません。
 一般にフィルム感度は、フィルムの乳剤の粒子(光を捉えます)の径を大きくすることで高くしていくため、フィルム感度を上げるほど粒状性は落ち、写真の仕上がりはコントラストが高く、ざらざらした感じになります。反対に、感度が低いフィルムほど、より微粒子の乳剤を使うことができ、なめらかできめ細かな仕上がりの写真になります。
 また、晴れた屋外で撮影する際に感度の高すぎるフィルムは、シャッタースピードの連動範囲をオーバーしてしまったり、選択できる絞り値が限られたりと作画にも不向きなことが多いものです。
 以上を総合して、撮影目的に適した感度のフィルムを選ぶ必要があります。  どんな撮影にも、ほぼオールマイティに使えるフィルム感度は、ISO 400〜800 です(ちなみにフィルムメーカー純正のレンズ付きフィルムでは、 いまや ISO 800 のカラーネガフィルムを装填した商品が主流です)。
 少し慎重に撮影し、よりきれいな仕上がりを求めるならば、ISO 50〜200。
 室内など暗い場所でスピードライトを使わずに撮影する時、屋内スポーツやコンサートなどでは ISO 1600〜3200 といった感度を選ぶといいでしょう。
 とはいえ、最近の高感度フィルムの改良は著しく、サービスサイズやサービスキャビネサイズでは、その差異はまず判りません。
 また、フィルムの粒状性をあれこれ悩むよりも、高感度フィルムで高速シャッターを切った方が、手ブレも被写体ブレも少ない、結果としてよりシャープに見える写真を撮ることができることだってあります。

 最近では、適当に感度を選んで 1 本丸ごと撮影し、現像時に感度を指定して調整するタイプのフィルムも何種類かあります。目的に合わせて、あるいは興味本位で(!?)いろいろな感度のフィルムを使い比べてみてください。

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<写真 10.a.>
ISO 50 のフィルムで撮影した例。

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<写真 10.b.>
部分拡大したところ。非常に滑らかでキメ細やかです。

写真3200

<写真 11.a.>
ISO 3200 のフィルムで撮影した例。
小さなサイズにプリントして見る場合には、違いはほとんど分かりません。

写真3200

<写真 11.b.>
部分拡大。
さすがにここまで拡大するとザラザラした感じが目立ちます。

フィルム感度と撮影条件

標準的な露出が得られる条件をおおまかに示しました。
白□ – 個人差はありますがカメラを手持ちで撮影できる範囲です。
—カメラとレンズの組み合わせによっては露出オーバーになりやすい範囲です。
—望遠レンズや接写ではブレなどの注意が必要です。
—ブレやピンボケになりやすい範囲。

ISO 感度 快晴 晴天 明るい曇り 日陰・曇り 室内(日昼) 室内(夜)
50 F11
1 / 125 秒
F8
1 / 125 秒
F5.6
1 / 125 秒
F4
1 / 125 秒
F2.8〜4
1 / 8 秒
F2.8〜4
1 / 2 秒
100 F16
1 / 125 秒
F11
1 / 125 秒
F8
1 / 125 秒
F5.6
1 / 125 秒
F2.8〜4
1 / 15 秒
F2.8〜4
1 / 4 秒
200 F16
1 / 250 秒
F11
1 / 250 秒
F8
1 / 250 秒
F5.6
1 / 250 秒
F2.8〜4
1 / 30 秒
F2.8〜4
1 / 8 秒
400 F16
1 / 500 秒
F11
1 / 500 秒
F8
1 / 500 秒
F5.6
1 / 500 秒
F4〜5.6
1 / 30 秒
F2.8〜4
1 / 15 秒
800 F16
1 / 1000 秒
F16
1 / 500 秒
F11
1 / 500 秒
F8
1 / 500 秒
F4〜5.6
1 / 60 秒
F2.8〜4
1 / 30 秒
3200 F22
1 / 2000 秒
F22
1 / 2000 秒
F16
1 / 1000 秒
F16
1 / 500 秒
F5.6〜8
1 / 125 秒
F2.8〜4
1 / 125 秒

3. 使ってみよう、面白フィルム

 あまり知られておらず、大型量販店あるいはプロショップでしか入手は困難かもしれませんが、35ミリ判一眼レフで使える面白フィルム(特殊フィルム)をいくつか紹介しましょう。
 それぞれに使い方に注意すべき点が多いので、使用説明書をしっかり読み、正しく使ってください。それぞれを上手く使えば、35ミリ判一眼レフの楽しさは何倍にもなります。
 実際に使わなくても、「こんなフィルムもあるのだ」ということを知っておけば、何かの役に立つはずです。

3.1. 赤外フィルム(モノクロ)

写真 .

<写真 12.> コニカ赤外750(コニカ)
 商品名の数値 “750” はフィルム感度ではなく、このフィルムの赤外線に対してもっとも感度の高い波長域である750 nm(ナノメータ)を示しています。

 人の眼では見ることのできない赤外線に感光する性質をもったフィルムです。
 青〜緑の光にも感光しますので、必ず指定の赤フィルターをレンズに装着して撮影します。
 露出は、赤外線の量に左右されますので、カメラの露出計はあまり頼りになりません。また、ピント合わせの補正も必要です。カメラへの装填も暗室でおこなうべきであるなど非常に慎重に取り扱う必要があります。

1.)青空は黒く、2.)新緑は明るく、3.)遠景はシャープに、4.)人物の肌は透き通ったような写りになります。

3.2. 赤外フィルム(カラーリバーサル)

写真 .

<写真 14.> エクタクローム プロフェッショナル・インフラレッド EIR(コダック)

 1.)青は黒に、2.)緑は青に、3.)赤は緑に、4.)赤外線に感光した部分は赤になるという、まことにもって奇々怪々なフィルムです。
 モノクロの赤外フィルムとは異なり、指定の濃い黄色フィルターを使って撮影します。
 カメラへの装填は暗室で、また、保管時はマイナス18 度以下で冷凍保存しなければならないなど、非常に取り扱いがデリケートなフィルムです。

3.3. モノクロリバーサルフィルム

写真 .

<写真 15.> スカーラ 200X プロフェッショナル(アグファ)

 モノクロのリバーサルフィルムです。最近では、コンピュータへのモノクロ画像入力にも(=たとえば、フィルムスキャナーにかけて、デジタル・プリプレスの原稿に)活用されているのだそうです。
 感度は ISO 200。指定現像所でしか処理できないため、納期はいくぶんみておく必要があります。

3.4. 35ミリ(135)判ポラロイド(R)フィルム

写真 .

<写真 16.> ポラクロームCS(ポラロイド(R)

 マニュアル露出で撮影が可能な35ミリ(135)判一眼レフで撮影することができます。
 撮影後数分でカラースライド(ポラクロームCS)、モノクロスライド(ポラパンCT)などを得ることができます。
 専用のプロセッサを購入し、自分で処理しますが、操作は簡単です。
 撮影講習会や緊急のスライド作成には威力を発揮します。

 フィルムもなかなか面白いでしょう。詳しくご紹介すると、いつまで経っても終わりませんので、今回はこの辺で終わり。

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