第9 回目「プリント」の基礎知識

似顔絵 「写真」と言えば、普通はまずプリント(紙焼)を指しますよね。モノクロプリントやカラープリント、それから日本では最近、セピア調(カラー)プリントも一般的になりました。
 こうしたプリントはいずれも、現像所で作成(現像〜焼き付け)して貰えますが、「何がどうなってフィルムからプリントができるのかよく判らない」が多くの人の印象ではないでしょうか。
 今回は、こうしたプリントについて整理します。
 ご近所の現像所(ラボラトリー)に D.P.E. (現像・プリント・引き伸ばし)をお願いする時に、是非参考にして頂ければと思います。

1. 現像所(ラボ)のいろいろ

 「現像」を単純にいうと、「化学薬品による処理」となります。つまり、露光済みのフィルムや印画紙を、温度を一定に保った現像液や漂白定着液などに、必要な時間だけ浸していくような作業です。ごく単純に言えば、「カップラーメンに熱湯(100°C)を注ぎ、3 分待つ……」といった作業を数回繰り返すような作業です。もちろん、液温や時間は正確でなければなりませんが、最近の自動現像機ではこれらを全てコンピュータで制御していますから、間違うことはありません。ですから現像所(ラボラトリー)や担当者による手順の違いは、まずないといっていいでしょう。
 ところが実際には、現像所や担当者によって、仕上がりに違いがあることをよく経験します。これはなぜでしょう ?

 現像、特にプリント作業には、もう一つ大切な要素があります。プリント作業は、印画紙を現像するだけではありません。フィルムに写った像を、印画紙に露光する作業が含まれています。これは、私たちがカメラを使ってやっている撮影と同じです。つまり、撮影と同じような難しさが、プリント作業にはあるわけです。
 いかに優れた写真家でも、あらゆる対象を上手く写すことはできません。これと同じように、現像所の担当者がいかに優れていたとしても、あらゆるネガから最良のプリントを仕上げることは不可能といっていいでしょう。ですから、こうした問題があることを理解して、上手く現像所と付き合っていくことが、よりよい写真を得る秘訣になるわけです。

 まずは、現像所の種類と特徴を簡単に整理し、次に自分で現像をおこなうことのメリットとデメリットについて考えます。

1.1. プロラボ、センターラボ、ミニラボ

 現在、一般的な現像所は、1)プロラボ、2)センターラボ、3)ミニラボに大別できます。各々の特徴を簡単に整理しますので、上手く活用して欲しいと思います。

1.1.1. プロラボ

 プロ専用の現像所で、首都圏や地方都市などにはあります。プロフォトグラファーの要求に応えうるさまざまなサービスを迅速に受けることができます。
 最近の日本国内でも、ネガそしてポジフィルムに指定メモを添えて郵便や宅急便で送れば、指定通りの現像 / 焼き付け等の処理をして送り返してくれるメールサービスをおこなう現像所も増えてきました(メールサービスに関しては、カメラ雑誌などに掲載の広告を参考にしてください)。

★特徴(長):
 ポジフィルムの現像は、特にサービスが良いです。処理自体に違いはありませんが、1.5 時間程度で仕上がり、また 1 / 2 段および1 / 3 段きざみの増減感現像も依頼できます。
 プリントも、知識の豊富な人が受付をおこなっており、非常に安心できます。
 その他、細かな要求や、突飛な要求にも応えて貰うことも可能です。

1.1.2. センターラボ

 受付け業務を、写真店、写真館、クリーニング店、コンビニエンスストア、文具店などに委託、フィルムを集荷し、大きな現像所(センターラボラトリー)で一括処理するシステムです。
 実は、ミニラボ(後述 1.1.3.)では対応できない注文は、センターラボが受託処理しています。
 集荷→ DPE 処理→配送という手間が必要なため、納期が余分にかかるのが欠点といえば欠点です。
 また、受け付ける人に写真の知識が欠けていると、撮影者の要望がセンターラボに正確に伝わらず、サービスが上手く受けられないこともありえます。

★特徴(長):
 機械で大量処理する強みで、現像も焼き付けも安価にできるのが大きなメリット。
 また、サービス内容も、ほぼプロラボ並みに豊富。特別な指定をする場合には、センターラボの担当者にまで確実に指定が伝わるよう、見本や文書を添付するといいでしょう。

1.1.3. ミニラボ

 小型の自動現像機を有する現像所で、主に、カラーネガフィルムの現像と焼き付けをおこなっています。「45分」とか「1 時間」といった短時間で処理できるのが最大のメリットです。
 日本ではカラー写真の約 6 割以上がミニラボで処理されているそうです。
 ただ、35mm(135)判(と、APS(IX240)判*)カラーネガ以外のフィルムの処理やプリントはできないミニラボも多く、センターラボ(上述 1.1.2.)に回して処理してもらっているようです。

注*:APS(IX240)判を扱えるミニラボは着実に増えています。

★特徴(長):
 オペレータと直接話ができるミニラボでなら、カラーネガのプリントは細かな指定も簡単にできます。プリントサイズも6ツ切り(ほぼA4判サイズ)くらいまでなら、いろいろなサイズを指定できます。
 写真の知識の豊富なオペレータと懇意になれたならば、多大な恩恵があるはずです。

1.2. 自家処理のメリット、デメリット

 モノクロフィルムやカラーネガフィルムの現像や焼き付けは、機材と薬品を揃えるだけで比較的簡単におこなえます。現像所ではなかなかできない特殊な処理をしたり、自分の思い通りのプリントを作成できます。単純に言えば、化学の実験のようなものです。
 とはいえ、時間と費用を考えると、現像所にお願いする方がはるかに安価で確実です。ですから、「自家処理は趣味として写真の深みを楽しむ」が、基本だと思います。

 自家処理の詳細は、拙著「暗室完全マスターハンドブック(学研刊)」を参考にして頂ければ幸いです。実際に自家処理しなくとも、処理のプロセスを知識とすることで、より上手に現像所を活用できるようになれるはずです。
 カラーポジフィルムの現像も自家処理可能ですが、仕上がりの安定性やコストを考えると、自家処理のメリットはあまりないように思います。

 さて、どのような処理にしても、使用後の廃液を正しく処分することは、一般の人には非常に困難なのが現状です。「処理量自体が少なければ、廃液を大量の水で薄めて廃棄して特に問題は起きない」と思っている人がいますが、感心できません。  近所の現像所(ミニラボを含む)さんなどに相談して、産業廃棄物の処理依頼先を教えていただくなどして、廃液の廃棄処理はちゃんとおこなうようにしましょう。現像所さんの御協力が得られない場合には、電話帳(NTT「タウンページ」など)で処理業者さんを探すこともできます。
 詳細は、「写真工業」誌(株式会社写真工業出版社刊)1998年8月号(通巻592号74頁)にレポートした「自家処理ユーザーの廃液処理」をお読みください。
 現像液と定着液(停止・漂白液)は分別しなければいけません。
 レポート執筆時の一般的な現像液類の廃液処理費は、50〜100 円 / 1 リットル程度でした。

2. プリント時に可能な調整

 プリントの全体的な濃度(”白さ黒さ”=第 8 回参照)や色は、自動現像機のボタン操作で至って簡単に調整できます。問題は 「どの程度の濃さやどんな色にすれば良いか」にかかっているわけですが、これは、結局、現像〜焼き付けをお願いする私たちが決めることです。
 「写真なんてこんなものさ」とお思いなら、それで別に問題はないのですが、「なんか満足できない、こんなはずではない」と思ったならば、ぜひ、濃度と色を再度調整してプリントを作りなおして頂きたいと思います。たったそれだけで、目を見張るような美しいプリントになったり、意外な写真の楽しさを体験できるはずです。  こうした調整は、カラーネガプリントだけでなく、詳細の説明は割愛しますが、ポジフィルムからのプリントや、デュープ(デュプリケート=複製のこと)作成時にも可能です。モノクロプリントの場合には、濃度とコントラストを変えることができます。

2.1. 濃度を変える

 カメラで絞りやシャッタースピードを調整することで、露出が変わります。プリントもこれと同じように、フィルムの像を引き伸ばしレンズを通して印画紙に露光していますから、この時の引き伸ばしレンズの絞りや露光時間を調整することで、プリントの露出(濃度)を変えることができます。このため、真っ白から真っ黒まで調整することが可能です。

<写真 2.a.〜g.>
 同じネガから、プリント時に濃度を調整してみると…..。

photo

真っ白の print
(-3ステップ)

photo

少しだけ像が出た print
(-2ステップ)

photo

やや白っぽい print
(-1ステップ)

photo

標準的の濃さの print
(+/-0)

photo

やや黒っぽい print
(+1ステップ)

photo

かなり黒い print
(+2ステップ)

photo

真っ黒の print
(+3ステップ)

 ステップというのは、カメラで撮影する際の露出補正の段数と同じです。プリントの濃さの変化は、ポジフィルムを使って露出補正する際の変化の幅にだいたい似ていますが、カラーネガプリントの場合には少しだけ変化の幅が大きいようです。
 また、<写真 2.a.〜g.>はカラーネガプリントですので、撮影時の露出補正とはプラスとマイナスが逆になっていることに注意してください。+/-0 が露出補正なしのオート露出です。

 さて、実際にプリントを作成してもらった時に、「思っていたよりも黒く仕上がった」とか、逆に「白っぽい」といった場合には、このような露出補正を行って再プリントすれば、プリントの濃度は自在に調整できます。その例を二つ挙げましょう。

<写真 3.a.〜b.>
 全体的に黒っぽく仕上がった場合には、「明るめに仕上げるよう」指示すればOK。

photo

黒っぽい print

photo

明るく補正した print

<写真 4..a.〜b.>
 全体的に白っぽく仕上がった場合には、「暗めに仕上げるよう」指示すれば O.K.。

photo

白っぽい print

photo

暗く補正した print

2.2. 色を変える

 撮影時に色フィルターをレンズの前にセットして撮影すれば、色のついた写真ができることはご存じのはずです。
 これと同じように、プリントを焼く際にも色フィルターを引き伸ばしレンズの手前にセットして使うことで、さまざまな色のプリントを作成することができます。
 カラープリントの場合には、ネガフィルムのベースの色(オレンジ色がほとんど)や印画紙との相性を合わせるために、必ずある程度の補正が色フィルターでおこなわれています。こうした補正は、自動現像機のオート機能でおこなわれ、ほとんどの場合、それで標準的な色調のプリントになります。
 しかし、それで満足がいかない場合には、どのような色補正をして欲しいかを伝えて再プリントを依頼すればいいのです。
 この場合、見本となるプリントを添え、どんな色を強くしたいとか、補正したいと伝えるといいでしょう。
 色補正の詳細については、第11回目の「写真の「色」を楽しむ」で詳しく紹介しますが、例を二つだけ挙げておきます。。

<写真 5..a.〜b.>
 蛍光灯照明では、「緑」が強いプリントになりがちですが、プリント時にフィルター補正をおこなうことで、正しい色再現になります。

photo

「緑」が強い print

photo

「緑」を補正した print

<写真 6.a.〜b.>
 白熱電球照明では、「橙(だいだい)」が強いプリントになりがちですが、プリント時にフィルター補正をおこなうことで、正しい色再現になります。

photo

「橙」が強い print

photo

「橙」を補正した print

3. さまざまなプリント

 「プリント」と一口にいってもさまざまな種類があります。まあ、普通の人が考えるようなことなら、手間暇とお金さえ惜しまなければ大抵のことはできると考えていいでしょう。
 ここでは、一般的な現像所のサービスについて簡単に整理します。現像所の受け付けで相談して、さまざまなサービスを上手く利用して頂きたいと思います。

3.1. 「手焼き」と「機械焼き」

 写真のプリントに「手焼き」と「機械焼き」という分類があることをご存じの方もおられるでしょう。単純に、「手焼き」は丁寧に人の手で処理したもので、「機械焼き」は機械任せというニュアンスがあります。
 ところが前述したように、現在の写真プリントは基本的に全てが機械で処理されています。ですから、語義的にいうと、「手焼き」はちょっと不自然な感じがするかもしれません。これは、昔、現像処理を人の手でやるのが普通だった頃の名残(なごり)と考えていいでしょう。

 「手焼き」と「機械焼き」何が違うか、というと、「手焼き」は優れた担当者がその仕上がりをチェックし、必要ならば濃度や色を補正しているという意味です。「機械焼き」は、このチェックが甘い、ないしは原則として補正はしないプリントだというわけです。
 つまり、「手焼き」はセンスと能力のある担当者の手間がかかりますから、「機械焼き」よりも随分高価になるわけです。

 ただ、いかに優れた担当者といえども、センスや能力には個人差がありますから、「手焼き」ならば必ず満足のいくプリントができるというわけでは決してありません。運次第では、「機械焼き」の方が良かったりすることもあります。このため、「「手焼き」=いいプリント」ではなくて、「色や濃度の指定を細かくできるプリントだ」と考えたほうがいいでしょう。

 あくまで私見ですが、ミニラボで担当者と話しながらプリントしてもらうことも可能な現在にあって、「手焼き」と「機械焼き」という名称も、さらにはこうした分け方も、あまり現実的ではないような気がします。それよりも、担当者の名前を掲げて勝負する「○○ ○○ 作のプリント」みたいなのがあればいいなぁと、常々考えているわけです。どうでしょうか ?

3.2. カラーネガフィルムからのプリント

 カラーネガフィルムから、普通のカラープリントができることは常識といっていいでしょう。しかし、それだけでなく、モノクロプリントやセピア調(カラー)プリントなどを作成することも可能です。プロラボやセンターラボなどで、こうしたサービスを受けられます。

3.2.1.モノクロプリントを作る

 カラーネガフィルムからモノクロプリントを作成するためのモノクロ印画紙(パンクロタイプ)にプリントすることで、美しい階調のモノクロプリントを作れます。
 カラーネガフィルムから一般的なモノクロ印画紙(レギュラータイプ)にプリントしても、モノクロプリントはできますが、赤い部分は若干黒っぽく再現されます。

<写真 7.a.〜b. >
 カラーネガフィルムからのモノクロプリント

photo

パンクロタイプ印画紙を使用

photo

レギュラータイプ印画紙を使用

(同じネガフィルムからのカラープリントを、3 回目「フィルム」の 2.2.2. 項に掲載しています。赤い服の再現性を参照してください)

3.2.2.セピア調プリントを作る

 カラーネガフィルムからセピア調一色だけを発色するカラー印画紙にプリントすることで、カラーネガフィルムからセピア調プリントを作成できます。一部のミニラボなどで、このサービスを受けられます。

3.2.3. スライドを作る

 カラー印画紙のような性質を持つフィルムにプリントすることで、カラーネガフィルムからでもポジ(スライド)フィルムを作成できます。
 プロラボやセンターラボで、こうしたサービス(通称「ラッシュ」)を受けられます。

3.3. ポジフィルムからのプリント

 ポジフィルムからのプリントは一般に「ダイレクトプリント」と呼ばれますが、これ以外の方法もあります。簡単に整理します。

3.3.1. ダイレクトプリントを作る

 ポジフィルムと同じような性質を持つ印画紙にプリントするものです。感材メーカーなどによってさまざまな特徴を持つものがあります。
 一般に、カラーネガからのプリントに比べると、少しコントラストが高い傾向があり、価格も高いようです。

3.3.2. インターネガを作る

 ポジ(スライド、リバーサル)フィルムから、反転したネガフィルムを作成することができ、これを「インターネガ」といいます。
 サイズの変更も可能で、大きめのインターネガを作成することで、画質の低下を最小限に抑えることができます。例えば、35mm(135)判スライドからだと、6×9cm判のインターネガを作成するといいでしょう。「インターネガ」からなら通常のネガカラープリントのプロセスでプリントを作成できます。
 大量のプリントが必要な場合には、高価な「ダイレクトプリント」よりも、「インターネガ」を介してカラープリントを焼くほうが安価になることがあります。

3.3.3. デュープを作る

 ポジフィルムは、オリジナルが一点しかない場合が多いものです。これを、複写専用のポジフィルムに撮影しなおすことで、予備を作成できます。これをデュープ(デュプリケート)といいます。大きさや濃度、色調を変化させたデュープも可能です。

3.4.モノクロフィルムからのプリント

 通常のモノクロフィルムやセピア調(カラー)フィルムからも、いろいろなプリントを作成できます。

3.4.1. モノクロプリントを作る

 モノクロ印画紙にプリントするもので、画像は銀でできています。このため、一般にカラープリントよりも長期保存に耐えることが最大の特徴です。  印画紙は、カラープリントと同じくRC(樹脂コーティング)タイプが主流です。バライタ紙(=階調が豊富な美しいモノクロプリントが得られる)へのプリントは、プロラボなど一部の現像所でしか扱っていないようです。
 いずれも、割合簡単に自家処理することができます。

3.4.2. 単色のカラープリントを作る

 通常のカラー印画紙にプリントしても、さまざまな色調の単色のカラープリントを作成できます。
 代表的なものがセピア調プリントですが、色フィルターを調整することで、あらゆる色のモノトーンプリントを作れます。

photo

セピア調プリントの例

photo

ブルー調にした例

(<写真 8.a.〜b. >と同じモノクロネガフィルムからのモノクロプリントを、3 回目「フィルム」の 2.2.3. 項に掲載しています。参照してください)

 さて、今回はここまで。現像はほとんどが機械的な作業ですが、実はそこに写真家と同じ「撮影」の要素があることをぜひ理解して欲しいと思います。
 そして、写真を愛する現像担当者氏との出会いこそが、皆さんの写真生活をより豊かにしてくれるのです。

]]>