創刊年の背表紙を合わせるとスフィンクスが

手元にあるのは、創刊号の6月から12月。そして翌年の8、9月。

ちゃんと見直すとこれがまた新鮮でして、なかなかやめられません。前回、「健全なエロ本」と書きましたが、当時の二十歳前後の男の子の欲望に応える本づくりをしていることが、本当によくわかります。バイクあり、自動車あり、戦争報道に時事問題にスキャンダルあり、スポーツあり、音楽あり。これらをまとめて「写真」という切り口で紹介しているわけです。 まさに「雑誌」の鑑。

写楽を基準にするなら、アサヒカメラ、カメラ毎日、日本カメラなどはかなりマニアックな感じがするのでしょう。逆に、これらを先に見始めた人からすると、写楽は茫洋として、少々下世話にすぎると見えるはずです。

写楽は創刊当初から、一年分の背表紙を並べると一つの写真ができる仕掛けがあることが示されていました。なので、1年分は買おう、と心に決めていたはずなのに・・・7カ月で飽きちゃったのなぁ。

横山正美さんの特集

 

さて、創刊号の記事を見直していて、思い入れがあった記事の一つがこれ。横山正美さん、と聞いて、今、わかる人はどのくらいいるでしょう。左の見開きのサブタイトルは「日本航空国際線スチュワーデス・180期生」。カンのいい人ならなんとくなくわかるはず。現役スチュワーデスのセルフポートレート(セミヌードあり)。と、青少年の心を鷲掴みにしますわね。全7ページ。この見開きの前のページには、彼女と母親が超ローアングルで写っている(顔はほとんどわからない)写真。この見開きが本文と、概要の紹介。次の2見開きは彼女が渡航先のホテルなどで撮影したセルフポートレート。最後は見開きで、高級なホテルのベッドルームで後ろ向きに撮影されたヌード写真です。

本文を詳しく読むと、彼女は写楽創刊号(6月号なので発売月は5月)の前月、4月25日付けで日航を退社し、これからインドに撮影旅行に出かけることを仄めかしています。事実、翌々月の8月号では、インドで撮影した写真の特集(5ページほどですが)が組まれ、これらを総じて、彼女が会社を辞め、「カメラを手にして自分探しの旅にでたのだ」ということが理解できます。

自分に迷い、広い世界を知りたいと全てを捨てて旅にでる・・・というのは、当時の青少年の憧れの一つであったと思うのですが、お寺に生まれ、何不自由なく育ち、美貌と才能を兼ね備え、誰もがうらやむ職業についた、まさに雲の上にいるような女性にも、そういうことが起こり得るのだということは、二十歳前の私には大きな衝撃だったはずです。

しかし今、還暦を過ぎて同じ記事を読むと、このように感じるのです。すわなち、雑誌の創刊号に、いくら麗しの才女とはいえ、カメラを手にして間もない写真業界的にはどこの馬の骨ともしれない彼女の特集を組むことは、かなり不可解。しかも、翌々月にもインド旅行の特集が組まれるという・・・。これはウラがあるぞ、と。

で、よくよく本文を読み直しましたら、「ベテラン編集者Yに勧められて、セルフポートレートの撮影を始めた」ことが書かれていまして、ああ・・・。いや、ここから先は詮索するのを辞めておきましょう。

wikiには記載はありませんが、調べてみたら芸能人の写真集も何冊か出版しているようですね。写真集にあるプロフィールには次のようにあります。1953年生まれ。「日本航空(国際線キャビンアテンダント)在職中より写真を始める。7年勤務後、退社。以後フリーランスの写真家として雑誌、コマーシャルなどで活躍。1988年から1年、NHK教育テレビ「日曜美術館」のレギュラー司会を務める。ペンネーム谷崎水紀で、詩、イラスト、コラージュなどの作品も発表。2003年、東京より逗子に移り住み、創作活動中。個展も数多く開催」とのこと。

よかったよかった。

 

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