日本カメラで連載を始めたのは1992年。なので、前年の秋に、フォトジャポン以来お付き合いのあった北折さんが、日本カメラの編集者である前田さんを紹介してくださったのがきっかけです。CAPAの暗室講座などをご覧になっていただいていたのだろうと思いますが、最初から「何か面白い企画はありませんか?」という話になりました。

数日考えて、「有名な作品を真似て写真を撮る企画はいかがでしょう?」と提案すると、「じゃあ、それで」とトントン拍子に話がすすみました。連載タイトルは「写真マニアの密かな愉しみ」。ルイス・ブニュニエル監督の『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』をもじりました。

評論家の伊藤さんのお手伝いをしていた時、「日本人作家はいろいろ面倒。ある作家を先に紹介したら、そいつが先なのはなぜ? とかいわれて話が進まなかったり、ヘソを曲げられたりすることが多い。この点、海外の作家は契約さえしっかりすればいいので楽」という教え(?)があったので、最初は海外の作家のモノマネだけにしました。

まあ、作品を侮辱するのではないですし、というか、基本的にはリスペクトし、これを模倣することで作品の本質に迫ろうという企画なので、問題にあることはないはずなのですが、少しはドキドキしながら連載はスタートしたのです。

しかーし。

どこをどう探しても、この連載の切り抜きファイルが見当たりません。廃棄は絶対しないはずなので、どこかにあるはずなのですが・・・。と思ったのと同時に、日本カメラ編集部はもうないのだ、日本カメラ社ごとなくなっているのだ、ということに改めて気づかされました。バックナンバーは会社にあったはずなのですが、いったいどうなってしまったのでしょう。

会社がなくなる、というのは、歴史がなくなるということでもあるのです。ま、国立国会図書館にいけば全巻あるんでしょうけれど。あるいはヤフオクで探すか。

話を元に。

「写真マニアの密かな愉しみ」は、一般読者よりも、私の周辺にはウケがよく、「こういう風通しのいい記事はいいねぇ」(玉内さん)とか、面白いという声が多少入りました。

そうそう。この年は自衛隊の海外派遣問題でPKO法が成立したのですが、この時の野党の牛歩戦術について、「結果的に意味のない表現になった」というような書き方をしたところ、石川県は珠洲市のお医者様から抗議の手紙が編集部に届きました。

「意味がない」とはなにごとか! というお叱りです。「ちゃんとした釈明を求める。さなくば新聞に投書するぞ」という脅迫にもならない脅迫までついています。まあ、投書していただいても結構なのですが、編集部の立場もあるし(というか、こんなのを著者にそのままリレーしてしまう編集部もどうかしていると思いつつ)、読者を一人失わないようにするためにも、あるいは話せばわかるはずだし、そうしたらこちらのファンになってくれるかも、などと自惚れた考えをもちつつ、電話を入れました。

が、直接話せばお互いの意見の相違も埋まるはず、と思ったのは大違いで、「私は医者で、人の命を救うのが仕事だ。だから私は正しいのだ」という一点張りで、2時間くらい話をしたのに、ぜんぜん話がかみ合いません。「医者だっていろいろで、人の命を奪うヘンなのもいますけれど」と、喉元まで出かかったのですが、どうにかこうにか抑えつつ、「まあ仕方がありませんね。投書するならしていただいて結構です」という結論に。いやあ、ホトホト疲れました・・・。

この手紙もどこかに残しているはずなんですけれどねぇ。

この手合いはこの一件だけで、著作権とやかくの問題もなく、そこそこ評判もよかったのでしょう。翌年は、日本人作家を扱うことにして、タイトルは『私家版術写真とそのマニュアル』に変更。「私家版」は井上ひさしさんの『私家版 日本語文法』から、「術写真とそのマニュアル」は、飯沢耕太郎さんの『術写真とその時代』をもじりました。

日本人作家の方も、それなりに評判はよかったようで、知り合いからは、「自分の作品もやってよ」と要望されたことが何回かあります。しかしここは、かなり有名な作品でないといけないので却下させていただきましたが。ただ、いくら有名といったところで、海外作家も含めて、写真マニアにしかわからないようなマイナーさであることは事実でした。

ある時、リブロポートの石原さんに、「こんな連載をやっているのですが本になりませんか?」と話題を振ったことがあったのですが、「作家といっても一般人は誰も知らないような人ばかりだしねぇ。売れないよ。」と軽く一蹴されました。

そんなわけで、書籍化の道はないと諦めていたのです。ところが、天は我に味方せり。連載が終わる間近だったか、終わった後だったか、情報センター出版局の細川さんという方から「出版させてくださいませんか?」と電話が入りました。

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