「家族」の話。括弧つきで「家族」としているは、家族という言葉に一般的な意味の上での共通項がなくなりつつあると思うからで、素直に受け取る前にちょっと一呼吸おかないといけないよね、という意味です。

 実のところ、「写真館の写真」のイメージの基礎には「伝統的な(古き良き)家族」が根強くあります。前にも書きましたが、この「伝統的な家族」のお手本になっているのは皇室であって、万世一系、男系で永遠に続くことを予定された家族像という意味。「写真館の写真」といえば三世代家族が思い浮かぶのです。保険や介護などのテレビコマーシャルに、よく登場します。多分、これが「古き良き時代の写真館」のイメージであって、あいも変わらず、私たち日本人の理想の家族像としてありつづけています。

 しかし翻って、現実的、一般的な家族像には、三世代家族は上のグラフにみるよう、家族全体の6%を切っていますし、この統計も平成28年が最後で、これから7年が過ぎていますから、このパーセンテージはさらに低くなっていることでしょう。

 「現実」は変わるけれど、「イメージ」は変わりにくい、というのは人の性のようで、少子高齢化といった減少もこうした理屈で理解できる部分もあるようですが、「古き良き写真館」がどんどんなくなってきて、「こども写真館」が増殖したのは、三世代家族→核家族、という流れを反映した現象の一つと考えてもよいのでしょう。スタジオアリスに三世代で行く家族は、ちょっと考えにくい。

 ところで、写真館の写真のイメージの変遷について簡単に整理してみます。

1)昭和・・・三世代家族がベース。だが、祖父、祖母は60~70歳代。50歳代も少なくなかったし、ちょっと長寿だと四世代にわたる家族もそれなりに。パパ・ママはだいたい20代。でも、昭和も終わりごろになると30代に近く。同居していれば、別々に写真を撮ろう、ということにはできにくいので、三世代で写ります。昭和も終りくらいになると二世代が増えてきますが、それでも「家」を重視する家族は写真館での撮影をずっと続けていたでしょう。しかし、若いパパ・ママ、子供たちにしてみればイヤイヤだったかもしれません。

2)平成・・・三世代→二世代に決定的に変化。祖父・祖母が、70歳代を超す。出産の高齢化もあるので、パパ・ママは30代がメインに。パパ・ママ世代と祖父・祖母世代は別居していることが多くなり、「家族」としての一体感よりも、言葉は悪いが「お金を出す人」「もらう人」という関係に。写真代を祖父・祖母に出してもらい、お礼に写真プリントを返す、といった具合。結婚=夫の家に入る、という考え方が忌避されようになったこともあるでしょう。

3)平成の終わり・・・平成の終わりくらいから、マタニティ撮影が増えてきました。出産する人数が減っていたので、「お腹が大きい」ところを美しく残したいという要求が増えてきたのでしょう。出産がイベント化したし、すごいリッチな産婦人科も増えました。それと、二世代家族も、自分たちは写らず、「子供だけの撮影」の割合が増えたかもしれません。

 ただ、子供たちと二世代の写真を撮る、ということに関していえば、子供に物心がつく(自我ができはじめる)小学生中頃から、自分だけ人形のように扱われることに拒否を示すことが多くなり、二世代家族の写真は中学生頃には「終わり」ます。反抗期にもなりますね。で、次は成人式とばかりに、全国的にビジネスも親心も、一気にヒートアップするという流れ。

4)令和・・・ここ数年は、ニューボーン撮影と称した新生児の撮影ビジネスが増殖中。『ヨーロッパやアメリカでは、赤ちゃんが生まれると遠方に住む家族や友人に出産した事を報告するために、「バースアナウンスメント」と呼ばれる、赤ちゃんの写真を付けた出産報告カードを送る習慣があります。
その習慣から生まれた物がニューボーンフォトです。(ネタもとこちら)』だそう。

 時代が下るごとに、写真館の写真に写る世代が若くなり、子供になり、幼児になっていくことがよくわかります。と、こうしてつらつら考えるに、もしや「大人が写る写真の文化」は、第二次大戦後に終わってしまったのではないか? という疑いを持つわけですが、この件、今のところ備忘としてだけ記すにとどめます。