「横浜の BARNEYS NEWYORK でアマナが写真スタジオを始めたらしい」という話を耳にして、中華街あたりで写真をやっている知人に伝えたら、「さっそく見に行ってきましたよ。これは売れるんじゃないですかねぇ」と反応が帰って来たのが、このスタジオ「&ima(アンドイマ)」がオープンした2014年ころ。あらあら、もう10年近くも前なんですな。

 ネットでサービス内容を見て、結構いい値段ではあるものの、広告写真大手のアマナらしいスタイリッシュさに加え、人物の360度オブジェクト撮影ができたり、プラチナプリント・ワークショップなども開催していて、スタッフに加えてくれるなら自分がやりたいぞ的な印象があったことは確かです。全てがお高いBARNEYS NEWYORKの上層階ですから、客層もいいだろうなぁ、と思っていました。

 しばらくして何かの引き出物のカタログ商品に、この&imaでの撮影サービスが入っていることを発見したのです。冷やかし&偵察&勉強といった複数の目的を兼ね、夫婦でのこのこ撮影してもらいに出かけたのは2018年の暮れ。

 確か7500円。撮影し、キャビネプリント(インクジェット)1枚をその場で手渡ししてもらい、データは後日メールで転送、といった内容だったと思います。

 おしゃれでハイセンスな額や小物が所狭しと展示され、マットカットやら額装などのサービスもしているので額装店のような佇まいもあって、まさにプロの現場というニュアンス。アリスなどにみる庶民的な子供っぽさはありません。

 スタジオは奥にあって、床面積は写真道場の3倍くらいはあるでしょう。コンクリートの打ちっぱなしに白ホリみたいな艶消しの白ペンキが塗られていて、これまた品のよい撮影用の椅子や机が並べられています。壁におしゃれな蛇口の痕跡があって、「ここでプラチナプリントをしているのですか?」と聞いたら、「プラチナプリントのサービスはもうやっていないんですよ」との反応。

「どの椅子を使いますか? どこを背景に撮影しますか?」から始まって、多分PROFOTOのジャイアントリフのような放射面をもつアンブレラ1灯での照明。カメラはキヤノンの一眼レフだったと思います。ビルの上層階ですから、おおなきガラス窓からは燦々と太陽光が入ってもいました。一回につき4カットくらいの撮影をして、結果を見て、再度撮影をする、という流れを3回くらいやったかな。その後は、写真をセレクトし、そのデータを使って現像ソフトで処理。ここで、色調の調整も希望を聞いてくださって完成。後はプリンターでプリント。という流れ。正味でいうなら30分くらい。入店後から入れると1時間くらい。

 とにかくは、撮影環境の良さ。広さと、センスのよい什器備品のセンス、プロっぽい撮影機材やPCの可動ラックなどなど・・・見るからに「ここは高いんだろうなぁ」となって、なので「高くても許せる」と気分が高揚しました。私たちは破格のサービスを受けているだけでこうなので、正規料金の撮影ならもっと入念なサービスになって、相当な料金でも満足できるはずです。

 「写真の善し悪し」の判断には、こういう環境も多く左右します。

 というわけで、撮影サービスも、写真の仕上がりもたいへんに満足し、データは翌年の年賀状に使わせていただきました。何もいわなければ、この写真は写真道場で撮影したものだと思ってくれるんだろうなぁ、と思いつつ、もちろん、近しい人にしかこれは伝えていません。

 そうそう、ニューボーン撮影を始めて知ったのも、このときに壁に展示されていた&imaの作例からだったのです。若そうな夫婦の両手の上に生まれたばっかりと思える新生児がのっているモノクロ写真。一瞬、「かっこいい、すごい、こういうのは流行るだろうな」と思った次の瞬間、「怖いなぁ、嫌だなぁ」という思いが重なって、なんともいたたまれない気分になりました。案の定、ニューボーン撮影は流行しているようですが、私自身は一切関わりたくない気持ちもまたはっきりしています。

 そんなことを思い出しながら、さて、最近はどんなサービスをしているのかなぁ、と改めて調べてみたら、ネット情報がなかなか見当たりません。しばらく調べてやっと、「2020年12月27日をもってクローズしました」とわかりました。

 2020年といえばコロナ初年ですから、一義的にはコロナが原因だったかもしれません。写真撮影、顧客サービス、品揃えなどは、市中の写真館・写真スタジオに比べると破格の最上級だったと言ってよく、価格もこれに見合う程度だったと思います。どちらかといえば、こういう店舗が成功して全国に広まれば、われわれ市中の写真館にもおこぼれがくるようになるんじゃないか、というトリクルダウン的な思いさえあったのです。そのくらい「未来の写真館」を感じた店舗でした。

 上質すぎた。「アート」によりすぎた。というところから、市場が狭くなりすぎた、というのは写真業界のあるある的な歴史ですから、こういう方面はあるかもしれません。しかし、本当の原因は何だったのか。知る機会があればいいなぁ、と強く思っています。