写真学校に入った1980年中盤はデジタルカメラのデの字も見たことがありませんでした。パソコンの導入も当時知り合いだった編集者やカメラマンよりも遅く、1999年頃になってやっと富士通のFMVを買ったのです。OSはWindows1998 Second Edition。

 パソコンの導入が遅れた理由の一つは、親指シフトキーボードのワープロを使っていたせいで、親指シフトが使えるパソコンが見当たらなかったのです。当時はインターネットもなく、パソコン通信とかいう時代でしたから、こういうマニアな情報はそういう接点がないと入手困難だったのです。ところが仕事で秋葉原を撮影しに行った時、たまたま入ったPCショップに親指シフトキーボードと富士通FMVのセットがありまして、それでやっと導入に踏み切った次第。この店に入っていなかったら、パソコン導入もかなり遅れていたでしょう。本体とプリンター一式で20万円くらいだったか。ハードディスクは6ギガくらいで、「8ギガの壁」とかいうのもありました。1ギガ1万円、が相場だったと記憶しています。余談ですが、親指シフトは今でも愛用していまして、親指シフト愛好家のフォーラムにも参加しています。

 デジタルカメラ導入も遅くて、自分ではあんまりやる気がありませんでした。が、1998年からニコンのWEBサイトで連載していた「くもん先生のカメラ遊遊塾」の続編として、デジタルカメラの記事を書いてほしいという依頼があり、コンパクトデジカメのニコン・クールピクスを使う記事を始めたのです。始めて買ったのは、クールピクス880でした。デジタルカメラのデも字も知らない人間がクールピクスを使う記事を書く、というのは無謀なような気もしますが、「共に学ぶ」というスタンスではよい記事になったと思います。

 なにより、これで相当勉強させていただきました。ニコンの担当の人にもいろいろ教えていただけましたし。クールピクス990(2000年4月販売開始)には、画角180度以上ある魚眼レンズもあって、これで今につながるVRにも触れることができました。ただ、当時の知識はあまりに貧弱で、VR自体も時期尚早ではありましたが。

 ともあれ遅ればせながらデジタル化の波になんとか乗れたわけで、これが数年遅かったら、その後の仕事にもだいぶん影響していたかもしれません。私よりも10歳くらい上の世代が二代目・三代目をやっていた小さな写真館は、この流れに乗れず廃業を余儀なくされました。また、最悪だったのは、なによりフィルムメーカーとその傘下の現像所だったでしょう。

 もっとも、当時は、デジタルカメラを撮影の事前確認用のポラロイド替わりに使って、本番はフィルム撮影なんてこともやっていましたっけ。そんな次第ですから、フィルムがデジタルに置き換わって、フィルム・現増代が不要になる。フォトショップで画像編集ができるようになる、といったメリットがでたくらいで、「写真」に対する考え方が劇的に変わったということはありませんでした。

 先日、昔の記事を整理していたら、「デジタル・フォト・ジャーナリズム展」の取材原稿がでてきて、ちょっと見直したのですが、デジタル化によって撮影カット数が膨大になる。編集にによって「嘘の情報」が出てくる。など、いろいろ変化が語られてはいますが、今にしてみれば、牧歌的な不安に見えます。

 いや、写真がフィルムからデジタルに変わったことよりも、インターネットやSNS、スマホのカメラの機能・画質の向上の方が、はるかに大きなインパクトをもたらせたんじゃないかなぁ、というのが今、強く思うところです。