第 2 回目「しっかり見て撮ろう !」

似顔絵 今回は、身の回りのさまざまな物を、ちゃんと写すために必要な技術をご案内します。
 デジタルカメラで撮影するときの “色” については「ホワイトバランス」機能を、写真一般の “濃さ(濃淡)” については「露出補正」機能を使うのは、前回お話した通りですが、今回は加えて次の 3 つの要素がテーマとなります。
 すなわち、

  1. 「被写体の形」と
  2. 「背景」と
  3. 「光の反射と影」

です(これらは、デジタルカメラであっても銀塩カメラ(フィルムを使うカメラ)であっても、写真を撮るうえで大事な要素です)。

 そして、自分で「いいな」と思える以上に、他人にも「いいな」と思ってもらえる写真を目指しましょう。そのためには、雑誌などでプロが撮影した写真のイメージを真似てみることも必要でしょう。また、配偶者や友人知人の意見もおおいに参考にしてください。
 失敗を多く重ねるほど、上達は早いものです。

 それからもう一つ。ぜひ三脚のご用意を。三脚が一本あるだけで、撮ることができる写真の幅がグンと広がります。三脚が無い場合には、カメラをできるだけ固定してチャレンジしてください。ブレが生じることがありますが、なんとなくの感じはつかめるはずです。

2.1. 平面を撮る

 最近では、コピーマシンのように平面物を簡単に複写できる(スキャンできる)フラットベッドスキャナをお持ちの方も少なくないはずです。でも、考えてみればこのパソコン周辺機器は、”平面物だけを撮影するカメラ” と言えそうですよね*。
 だとすれば、デジタルカメラをフラットベッドスキャナ代わりにできるのは、当然の理(ことわり)です。

注*:反対に、デジタルカメラのことを “立体スキャナ(立体が撮れるスキャナ)” と呼ぶひともいます。

 もちろん、デジタルカメラではフラットベッドスキャナよりも平面物の複写に手間が掛かることは確かです。しかし、面白いことに、フラットベッドスキャナよりも自由度のある複写が可能になります。
 基本的には室内の蛍光灯照明を使用しますが、できれば卓上ランプ(数十ワット以上の電球を1 個 / 1 灯)と大きめのトレーシングペーパー(ディフューザー / 拡散板として使います)と白紙(レフ板 / 反射板として使います)を用意してチャレンジしてください。
 もちろん、必要に応じてホワイトバランスを選択・設定することも忘れずに。

2.1.1. 複写の基本

 まず、印刷物を複写する方法をマスターしましょう。何でもいいですから、手元にある印刷物を、これから紹介する方法で撮影し、それぞれの違いを自分の眼で確認してください。さらに、理解が深まるはずです。
 これらの方法をマスターすれば、イラストだろうが、絵画だろうが、写真だろうが、たいていの平面物の複写ができるようになります。

image★ ここがポイント !
 カメラ内蔵スピードライト(エレクトロニックフラッシュ)を使用すると、<写真1.>や<写真 2.>のように、スピードライト光の反射(テカリ)も写ってしまいます。
 複写の場合には、「発光禁止」モードに設定するのが基本です。室内照明や卓上ライトはあまり明るくありませんから、シャッタースピードは遅くなるでしょう。だから、ぜひ三脚を使用してください。
 三脚を使えばカメラ位置の微調整も非常に楽になります。


image

<写真 1.>
スピードライト光が反射

image

<写真 2.>
無光沢の原稿ではテカリは出ませんが、全体的にぼんやり写ります。写真 5. と比較してください。

 

▼ステップ 1.:直角を直角に写す

image

<写真 3.>
少し歪んでしまう……

 <写真 3.>は、印刷物を机の上に置いて、普通の眼の位置から撮影したものです。
 照明は室内の蛍光灯だけですから、もっともお手軽な撮影方法と言えます。しかし、カラーコピー機で取ったコピー、フラットベッドスキャナでスキャンした画像とは決定的な違いがあります。何でしょう ?
 簡単ですね。「直角が直角に写っていない」のです。オリジナルは長方形なのに、写真には少し歪んだ平行四辺形に写っています。

 では、どうしたら、「直角を直角に写す」ことができるのでしょう ?

 答えを正確に書くのは少し難しいのですが、簡単にいえば、まずは「カメラと平面物を平行にすればいい」のです。
 少し詳しくいうと、「カメラのレンズの光軸と平面物の中心が直交する」ような位置関係にするわけです。
 ま、言葉でいうよりも、実際に液晶モニタで確認してみれば判ります(デジタルコンパクトカメラの光学式の透視ファインダーでは、微妙な調整はまず無理です)。

 より厳密に撮影したい場合には、<写真 4.>のような水準器(日曜大工店などで市販されています)を使うとよいでしょう。



image

<写真 4.>
水準器(レベル)を使ってみる……

image

<写真 5.>
カメラと平面物を平行に撮ってみる……

 そうして撮影したものが、<写真 5.>。これも室内の蛍光灯だけの照明です。
 フラットベッドスキャナで複写した(スキャンした)のとほとんど同じでしょ。
 カメラと平面的な被写体が近い場合には、カメラや撮影している自分の頭や身体の影が落ちることがありますので注意してください。照明器具の位置を考えてセッティングしなおすか、カメラのズームレンズを望遠 [ T ] 側にして、カメラを平面物から離して撮影すれば目立たなくなります。
 また、平面物が大きい場合には、カメラ位置の固定が大変ですから、被写体を壁に貼り付けるなどして撮影すると割合に楽です。

▼▼ステップ 2.:卓上ランプと白紙を使って撮影する。

 次に、卓上ランプがあれば、室内照明を消して、ランプだけで撮影してみましょう。
 <写真 6.>のように、だいたい斜め45度くらいの角度で平面物を照明するような位置にライトをセットします。これで撮影したのが<写真 7.>。写真の上部(撮影時には左側)が明るく、下部(撮影時には右側)が暗くなっています。

image

<写真 6.>
卓上ランプだけでライティング

image

<写真 7.>
上が明るく、下が暗い……

 この明暗差を小さくするために、<写真 8.>のようにランプの反対側に白紙を置いて照明光を反射してみましょう。
 撮影結果は、<写真 9.>。明暗差が小さくなりました。

image

<写真 8.>
白い紙でライティングにひと工夫

image

<写真 9.>

 ランプを平面物から離れた位置にセットすると、さらに明暗差が小さくなるはずです。
 さて、ここまでできれば、たいていの平面物の撮影ができる自信がついたはずです。明暗差を完全に無くすには、反対側から、もう一つ別のランプで照明すればいいのです。
 ここでは紹介しませんが、仕上がりはなんとなく想像はつくはずです。

2.1.2. 立体的に撮る

 複写の基本をマスターできたら、平面物を立体的に撮る方法にチャレンジです。
 「平面を立体的に ?」とか言われると何がなんだか判りませんが、写真のイメージをご覧になれば、いわんとするところはご理解頂けるでしょう。

image

<写真10.>

image★ここがポイント !  複数の平面物を、高さを微妙に変えてセットします。その高さの差によって生じる「影」がミソです。
 この「影」は、室内の蛍光灯照明だけでは、なかなかうまく出ないはずです。先に紹介したランプと白紙による照明方法をおこないます。

 下地(背景)についても考えましょう。

▼ステップ 1.:「影」を作る

 写真を 2 枚、ただ机の上に置いただけで、ランプと白紙を使って撮影したものが<写真11.>です。ちょっと味気ないですね。これなら、フラットベッドスキャナでも撮れます(スキャンできます)。
 ところが、それぞれの写真の背景からの高さを少しずつズラしてセットしてから撮影する(<写真12.>)と、<写真13.>のように、被写体の右側と下側にくっきりと影ができます。

image

<写真11.>

image

<写真13.>

image

<写真12.>

 実は、この影があるから、私たちは、これらの写真が「浮いている」ように感じるのです。彫刻でいうレリーフ像に立体を感じる理由はここにあります。ですからもちろん、レリーフ像を撮影する場合も、この方法で「影」を作るといいわけです。 ▼▼ステップ 2.:「影」の境界を滑らかにする

 ステップ 1. で撮影した影は、その境界がはっきりした線になっていることに注目してください。なぜならば、光源であるランプが小さいからです。
 ランプシェードなどのついた大きなランプを使ったり、ランプの前にトレーシングペーパーなどをセット(<写真14.>)すれば、この影の境界が滑らかになります。
 <写真15.>は後者の方法で撮影したものです。

image

<写真14.>
トレーシングペーパーで照明光を拡散


image

<写真15.>

 トレーシングペーパーがない場合には、薄手の白布や炭酸カルシウム製の買い物袋などで試してください。電球の前に何をセットするにしても、温度上昇〜火事には気をつけましょう。

▼▼▼ステップ 3.:斜めから撮ってみる

 カメラのズームレンズをやや広角(W)側にセットし、斜め方向から近づいて撮影したものが<写真16.>です(トレーシングペーパーは使っていません)。
 真上から撮影したものより、かなり大きな写真を撮影しているような感じがしませんか ?
 斜めから撮影しているため、正確な複写ではありませんが、写っている写真自体に遠近感があります。
 斜めから撮影するため、<写真17.>のようにランプが写真の表面に反射したり、周囲においた白紙など余計なものまで画面に入ったりすることがあります。注意して撮影してください。

image

<写真16.>
遠近感が出た……

image

<写真17.>

 これに住所や挨拶を書いた紙を添えて撮影すれば、それだけでポストカードの出来上がりです。
 さらに、アルバムやノートなどに写真を貼って撮影しても楽しいでしょう。

2.1.3. 額装した作品を撮る

 額装した作品を撮影する際にもっともやっかいなのが、ガラスや透明アクリルの存在です。これらの表面は極めて滑らかですから、光の角度によって強い反射を生じます。
 カメラ位置や額の向きを少し変えて角度をズラしたり、カメラ側に暗くなるように室内照明を調整してみましょう。
 可能なら、撮影する間だけ、ガラスやアクリルを額から取り除く方法も試してみましょう。

image

<写真18.>
ガラスやアクリルの反射

image★ここがポイント !
 なにげに写真を撮影する時、私たちは被写体そのものを注視してしまって、被写体が反射している光の反射(テカリ)にはあまり注意がいかないものです。
 そこを少し頑張って、反射を見るようにしてください。
 デジタルカメラでスピードライトを使用する際は、撮影後に必ず、液晶モニタでテカリを確認します。

image

<写真19.>

▼ステップ 1.:スピードライトで撮影するコツ

 作品がガラスや透明アクリルなどで保護されている場合に、内蔵スピードライトで撮影すると、強い反射が写ります。また、作品自体に光沢がある場合も同じです。これは、2.1.1. 複写の基本で紹介したことと同じです。

 スピードライトを使って、こうした反射をなくするには、作品を少し斜めから撮影するのがコツです。<写真19.>では、作品のやや左側から撮影しています。

 ズームを望遠 [ T ] 側にして遠くから撮影すると、形の歪みも小さくて済みます。

▼▼ステップ 2.:自分自身を写さない

 内蔵スピードライトを「発光禁止」にして撮影すると、<写真20.>のようにガラスやアクリルなどからの反射はほとんど写りません。
 しかし、作品が特に黒い(暗い)場合には、<写真21.>のように、撮影しているカメラや撮影者自身が明るく写り込む(映り込む)ことがよくあります。
 この場合、カメラのレンズを望遠 [ T ] 側にし、作品からできるだけ離れた位置から撮影すると、ある程度まで、この写り込みを軽減することができます(<写真22.>)。


image

<写真20.>
「発光禁止」モードで撮る

image

<写真21.>
カメラを構えた姿が……

image

<写真22.>
できるだけ離れた位置から撮ってみる

 もし、室内の照明を調整・変更できるならば、照明を作品だけに当てて、カメラ & 撮影者がいる場所を暗くすると、写り込みはほとんどなくなります。
 写り込みを完全に無くすためには、

  1. ガラスやアクリルを額から取り外す、
  2. カメラの前にレンズ部分だけをくり抜いた黒幕を垂れて撮影する

などが考えられますが、ちょっと非常識ですね。必要があって、許可がおりる場合に限ってチャレンジしてください。

▼▼▼ステップ 3.:机の上の額を撮る

 <写真23.>は、机の上を片づけ、小さな額を置いて撮影したものです。ガラスは外しています。
 普通の蛍光灯照明下での撮影ですが、びっくりするほどきれいだと思いませんか ? これなら、ライティングのプロなんて必要ないですね……。困ったことです。はい。

 ただ、少し注意が必要なのが、この場合、パソコンのモニタ画面と額のガラスへの蛍光灯の写り込みです。撮影している時には、あまり気づかないものですが、写真として見ると、結構気になります(<写真24.>)。

image

<写真23.>

image

<写真24.>
写り(映り)込みに注意 !

 でも、モニタや額の角度を少し変えるだけで、見違えるほど、こうした写り込みは減らすことはできます。デジタルカメラの液晶モニタでテスト撮影した画像をしっかり確認し、それぞれの角度などを調整してください。

2.2. 立体を撮る

 平面物が自在に撮影できるようになれば、特に何も言わなくても小物の撮影くらいは楽にできるはずです。注目すべきは、「被写体の形」、「背景」、「光の反射と影」です。
 ここでは、1.)室内照明を消した窓際の光、2.)室内蛍光灯照明、3.)卓上ランプ、の 3 種類の光源で試してみますが、屋外で撮影する場合でも要領は同じです。

 ここでは紹介しませんが、自動車やバイク、衣装などの撮影でも、見るべきところは同じです。ただ、被写体が大きくなるぶん、光量や面積の大きな光源と、広いスペースが必要になります。これらを撮影したい場合には、事前にプラスチックモデルや人形などのミニチュアを使ってシミュレーション(テスト撮影)をしてみるといいでしょう。

2.2.1. 窓際で撮る

 窓際は、屋外の自然な光が、さまざまな表情をもって差し込む場所です。たいていの小物は、この光で撮影することができます。
 ただし、室内が蛍光灯や電球で照明されている場合には、それらを消灯してから撮影してください。なぜなら、屋外からの光と、蛍光灯や電球の光は、その色がかなり異なるからです(詳細は次回に整理します)。

image★ここがポイント !
 窓際の光の色(色温度)は、曇天の光の色(色温度)に近いものです。
 夕焼けや朝焼けでなければ、ホワイトバランスを「曇天」に設定すれば、美しい色で撮影できるはずです。
 もちろん直射日光が差し込む場合は「昼光」に設定します。

▼ステップ 1.:露出補正をおこなう

 当たり前ですが、窓際の光は窓の側から、つまり奥の方から差し込みます。結果的に被写体の手前が暗くなります(これが、いわゆる「逆光」あるいは「半逆光」という撮影条件です)。
 でも、心配御無用。基本中の基本である「露出補正」機能を使ってみましょう。
 たいていの場合、きれいに写したいのは、被写体の手前(こちらを向いている部分)です。ここに影が落ちて暗くなっているのですから、プラス側の露出補正(+0.5〜2 )をおこなって撮影するのです。
 たったこれだけで、見違えるようなイメージになるはずです。

image

<写真1.>
露出補正なし

image

<写真2.>
+1 の露出補正

 <写真1.>が露出補正「なし」、<写真2.>は「プラス 1」の補正をおこなったものです。たったこれだけでも随分、印象は違います。
 ただ、この場合、窓に近い場所は、真っ白になってしまう(飛んでしまう、データが飽和してしまう)のが難点です。

▼▼ステップ 2.:白紙で光を反射する

 もし、適当な大きさの白紙(ここで使っているのは30センチ角程度の大きさの紙です)が準備できるならば、それを被写体の手前にセットしてみましょう。
 白紙の角度や位置によって、被写体の手前側の暗い部分を明るくできることが判るはずです。
 影の部分が最も明るくなる位置に白紙をセットして撮影しなおしてみましょう(<写真3.>)。
 白紙がない場合は、白布、発泡スチロール、炭酸カルシウム袋などでも O.K.。白いものならば何でも使えます。  こうして撮影した画像が<写真 4.>です。
 露出補正だけをおこなった<写真 2.>と比較すれば、窓に近い部分の真っ白なところも(飛んでしまわずに)ちゃんと描写されていることが判ります。


image

<写真 3.>
白い紙で、光を反射する

image

<写真 4.>
白飛びを押さえました

 もちろん、どちらがきれいか、お好みに合うかは撮影している貴方が決めることです。でも、白紙一つで写真写りが大きく変わることだけは、覚えておいてください。

▼▼▼ステップ 3.:トレーシングペーパーを使う

 <写真 5.>のような状況で、窓の外(屋外)の様子まで写したくない場合などには、トレーシングペーパーを窓ガラスに貼って撮影するとよいでしょう(<写真 6.>)。
 もちろん薄手で白いカーテンでも代用できます。

image

<写真 5.>

image

<写真 6.>
窓ガラスに目隠しのつもりでトレーシングペーパーを貼ってみると……

image

<写真 7.>
柔らかな拡散光が花々を包みました

 また、直射日光が差し込む状況では、トレーシングペーパーを貼ることで、太陽光を拡散できて柔らかい感じになります。薄手のカーテンと同じ効果ですね。
 さらに、前述した白紙などと併用すれば、<写真 7.>のように非常に柔らかい光を感じさせるイメージの写真を簡単に撮影できます。

2.2.2. 室内光で撮る

 何度か前述したように、室内の蛍光灯照明は非常に柔らかい美しい照明です。
 ですから、デジタルカメラでホワイトバランス機能がよく効く機種では、あまりライティングのことを考えなくても、眼の前に被写体を置いて撮影するだけで、非常に美しい写真が撮れます。

 ただ、あまり明るくはありませんからシャッタースピードは遅くなるでしょう。極力、三脚などを使用してブレを抑えて撮影してください。

image★ここがポイント !
 たいていの室内では、蛍光灯や白熱電球など、さまざまに色温度が異なる照明器具が使われています。
 デジタルカメラにて被写体の色を、見た目通りに撮影したいときには、屋外からの光を厚手のカーテンでカットし、蛍光灯以外の照明は消してください。
 ホワイトバランスの設定は「オート」でもかなり十分ですが、「蛍光灯」など細かな設定機能がある機種では、それらもいろいろと活用してみましょう。

▼ステップ 1.:レンズの焦点距離と「被写体の形」

 デジタルカメラでもズームレンズつきの機種は人気があります。
 このズーム変倍機能を、単純に、「写真の上で “被写体の大きさ” を変えるもの(撮影倍率を変えるもの)」と思っている方は少なくないはずですが、もうひとつ、「写真の上で “被写体の形” も変わる」ことにも注目して欲しいと思います。
 基本的に、広角 [W] 側にして、被写体にどんどん近づいて撮影すると、被写体の形が誇張(デフォルメ)され、実物よりも大きめに見えます。
 逆に、望遠 [T] 側にして、被写体との距離を遠く離れてから撮影すると、まるで設計図のような素直な形で写ります。
 「どちらが良いか ?」というのではなくて、それぞれの特徴を活かすように使いこなしたいものです。

image

<写真 8.>
[ W ] 側で撮影

image

<写真 9.>
[ W ] 側と [ T ] 側のあいだで撮影

image

<写真 10.>
[ T ] 側で撮影

 <写真 8.>は、広角 [ W ] 側で撮影した画像、
 <写真 9.>は、広角と望遠の中間で撮影した画像、
 <写真10.>は、望遠 [ T ] 側で撮影した画像です。
 形の違いを見比べてください。カメラの大きさの印象がかなり異なることに気づくはずです。

 なお、これらの 8.〜10.の写真は全て、室内蛍光灯だけの照明で撮りました。驚くほどきれいだと思いませんか ?

image

<写真11.>
被写体の置き方・浮かし方をひと工夫

▼▼ステップ 2.:被写体の向きを変える

 立体物は、その向きによって、さまざまに見えるものです。その向きによっては、その特徴がよく判るようにも、よく判らないようにも撮影することができます。
 もっとも一般的なのは、縦・横・奥行きの三方向が見渡せる向きからの撮影です。とはいえ、それだけでもさまざまな向きがありますね。自分自身で一番アピールしたい部分を前面に見せるように写してみましょう。

 さらに、<写真11.>のように被写体の置きかた(浮かし方)を工夫すると、それだけでちょっと立派な印象を受けます。
 写真には、被写体の後方は写りませんから、テープや消しゴムや粘土、あるいは針金などで支えて写してみましょう。注目度アップ間違いなしです。

▼▼▼ステップ 3.:被写体を動かしてみる。

image

<写真12.>
スプリングカメラの使用時

image

<写真13.>
同・収納(携行)時

 このようなスプリングカメラによらず、自身の形がおおきく変わる被写体(<写真12.> が <写真13.> に)は少なくありません。
 あるいは、先に例に出したフラワーアレンジでも、それぞれの花の位置を変えることで、写真の見え方は随分変わります。
 実物は立体物で、私たちはそれを両眼で視る(=両眼立体視する)のが普通ですが、写真には、その立体物を一点から視た(=つまり片目で視た時と同じ)ようすしか写りません。この違いは、意外なほど大きなものです。
 実物を見ながら写すだけでなく、液晶モニタ上に写るイメージを見ながら、被写体がもっとも美しく見えるように、あるいはその機能がよく判るように被写体の動かせる各部分を動かしてみましょう。

2.2.3. ライティングのヒント

 「写真のプロのライティング」などというと、それだけで難しそうな感じがします。
 確かに、容易なものではありませんが、被写体に光を当てるといった意味では、室内や卓上の照明を工夫するのと、根底では通じています。
 ここでは、光源に40ワットの卓上ランプをわずか一個(一灯)だけ使ったライティングの例をお見せします。これ以外に使っているのは、白紙とトレーシングペーパーだけです。たったこれだけの機材で、このような写真を撮影することができます。
 とにかくは自分の目で見て、工夫して撮ってみるだけです。ま、それが一番面倒なんですけれど、だから面白いとも言えます。ぜひ、チャレンジしてください。
 もちろん、時計や万年筆や宝石などの装身具といった小物の撮影にも応用できます。

image★ここがポイント !
 ここでは、トレーシングペーパーを支持するために専用のスタンドを使用しています。
 皆さんの手元には、おそらくこのようなスタンドはないでしょうから、友人や知人にお願いして、手持ちで支えてもらうところから始めてみては如何でしょう。専用のスタンドよりも、自由に位置を変えて貰えるだけ便利(?)だったりするかもしれませんよ。

▼ステップ 1.:卓上ランプだけで照明してみる

 ランプ一個(一灯)だけを使って、被写体をさまざまな方向から照明してみましょう。
 見える対象は同じ物なのですが、「光の反射と影」によって、さまざまな表情をすることに気づくはずです。
 まずは、これらの違いをしっかり見究めることがスタート地点です。

image

<写真14.>
デジタルカメラの少し上に、卓上ランプをセット

image

<写真15.>
被写体(「Nikon F2」というフィルムカメラです)の左側、斜め45度くらいから照明をあてる

image

<写真16.>
卓上ランプを被写体の真上にセット

 <写真14.>は、照明を(デジタル)カメラの真上にセットして撮影したもの。
 <写真15.>は、照明を(デジタル)カメラの左側、だいたい斜め45度くらいの位置にセットして撮影したもの。
 <写真16.>は、照明を被写体の真上にセットして撮影したものです。
 それぞれの違いを見比べてください。

▼▼ステップ 2.:光の反射(テカリ)に注目する

 「2.1.3. 額の中の被写体を撮る」 では、光の反射(テカリ)をいかに無くすか、がテーマでした。しかし、ガラスや宝石、金属の表面などは、こうした光の反射(テカリ)があるからこそ、美しいのですね……。
 <写真18.>は、カメラのレンズにランプを直接当てて撮影(<写真17.>)したものです。ランプの光がレンズのさまざまな面で反射し、いくつものテカリになって写っています。また、レンズ鏡筒の先端部分とボディ右下部分にも強い反射があることが判ります。


image

<写真17.>

image

<写真18.>
カメラのレンズに照明をあてると……

 でも、これではあまり美しいとは言えません。

▼▼▼ステップ 3.:トレーシングペーパーを使ってみる

 ランプの前にトレーシングペーパーをセットすると、光が拡散されて柔らかくなります。なぜかというと、被写体から見た時、光源が大きくなったのと同じ効果があるからです。
 これはつまり、晴天の直射日光下では影が強くでるのに比べ、曇天下では影が弱くなることと同じ要領です。

 というわけで、ランプの前に大きなトレーシングペーパー(80センチ角)をセットして写した(<写真19.>)ものが<写真20.>です。<写真18.>に比べると雲泥の差ですね。
 さらに、トレーシングペーパーはそのまま、ランプの位置を変えてみたのが、<写真21.>。レンズ表面とボディ各部のテカリに、ずいぶんな違いがあります。


image

<写真19.>
大きなトレーシングペーパーを専用スタンドにセット

image

<写真20.>

image

<写真21.>

 ここまでできたら、後は、皆さんの美意識の問題だけです。自分自身で「きれいだなぁ」と心底思えるように、ライティングを施して撮影してください。

2.3. 料理を撮る

 さて、本稿で紹介したかった全ての基礎知識は、ここまでで紹介し尽くしました。ここでは、作例を中心に、解説は最小限にして、料理の撮影について考えてみましょう。
 料理といってもさまざまですが、サンドイッチ、お弁当、シチューを例にします。
 一番の課題は「美味しそうに見えるかどうか ?」ですが、これには好みや趣味の問題が多く関わってきます。写真撮影の技術は、実をいうとその後の問題です。
 でも、以下に紹介するアイデアを参考にすれば、何もせずにカメラ任せで撮影するのとは違った料理写真が撮れるようになると思います。

2.3.1. 単品を撮る

 サンドイッチですね。料理と言えば、まず盛りつけ。写真には決して、本当の味は写りません。だから、まず見た目を大切に盛りつけるのがコツですね。いつもなら皿に置くだけなのですが、バスケットに入れてみる。ジュースを添えてみる。などなど……。

image

<写真 1.>
カメラ内蔵スピードライトで撮影。カメラ任せで撮るとこういう具合になりがち。ま、”極めて一般的な料理写真(?)” といったところでしょうか ?

image

<写真 2.>
蛍光灯照明での撮影(三脚は必要です)。見た目に近い感じですね。<写真 1.>と比べると、まさに”一味” 違いますよね ?

image

<写真 3.>
窓際に置いて撮影しました。差し込んでいる直射日光が強すぎて、画面右上には “白飛び” が発生。でも、とても “朝” らしい雰囲気がありませんか ? 露出補正、白紙の使い方、そして窓際の光の扱いをいろいろ試しましょう

2.3.2. 下地(背景)とカメラアングルを考える

 お弁当です。まず、下地(背景)を変えて撮影してみましょう。いつも使っているテーブルクロスではないものに変えるだけでも、ずいぶん印象が変わります。
 次に、カメラのアングルを変えて、ズームレンズ機能を使って……、さまざまな角度から、距離から撮影してみましょう。意外な発見があるはずです。

image

<写真 4.>
ベージュのクロスを敷きました。お弁当や弁当箱とクロスの色が似ていて、お弁当がちょっと目立ちませんね…..。

image

<写真 5.>
柄もののハンカチーフ。カジュアルな感じは好ましいですが、柄が細かくて少しうるさい感じもします。

image

<写真 6.>
緑のクロスを部分的に使ってみました。背景が立派すぎて、なんだか高級な懐石料理のようでもありますが、これも”お弁当を包んでいた布” と無理やり解釈。

image

<写真 7.>
スプーンなどを添えて、真俯瞰から。中身が全て見えるのは、やはり高いところからの俯瞰位置ですね。記録用には、ぜひ押さえておきたいカメラアングルの基本です

image

<写真 8.>
ズームレンズを広角(T)側にして、ググッと近づいて撮影すると、大きめのお弁当のような誇張感が。中身もよく見えます

image

<写真 9.>
お弁当のご飯は、だいたいどれも同じ。となると、勝負所はおかず。そこで、ご飯は後方に、おかずを前面に、ググググーッと近づいて撮影


2.3.3. 食卓をイメージする

 食事を二人ぶん以上撮影してみましょう。 もちろん、二人分目は、一人前と同じ料理なのが普通ですから、どちらかを背景のように扱ってみます。さらに、ここでは真っ白の背景ですが、みなさんの素敵な(?)キッチンを背景にしたら、料理もいっそう引き立つはずです。


image

<写真10.>
シチューです。グラスには、キリりとよく冷えた白ワイン……といいたいところですが、実は 油を薄めた水(! !)。写真に味までは写りません

image

<写真11.>
縦位置で撮影。横位置とは雰囲気が少し変わりますね。構図の縦/横に合わせて、料理の配置も
変えてみましょう。

image

<写真12.>
ズームを広角 [ W ] 側にして、ググッと近づいてみます。メインディッシュがよく見えます

image

<写真13.>
食卓が白熱電球で照明されている場合、ホワイトバランスをわざと「太陽光」にマニュアルで設定すると、橙色がより強くなります。夜の雰囲気がでますね。

(「2.3. 料理を撮る」協力:いまだ 里香)

 さてさて、今回はここまで(毎度、データが重くなって恐縮しております)。でも、小物や料理など、動かないモノの撮影(ブツ撮り)は、これでバッチリ ! ではないでしょうか ?
 小物に限らずとも、自動車や衣装などでも、冒頭に述べたように注意して見るべきところは、「被写体の形」と「背景」と「光の反射と影」であることは共通しています。カタログや雑誌の記事に掲載された写真を眺める時に、これらにも注目するように心がけると、デジタルカメラでも銀塩カメラでも写真撮影の上達もいっそう早まるでしょう。頑張ってくださいね。

 あと、撮影に必要なさまざまな小道具類については次回(第 3 回目「足元を(基礎を)固めよう !」)にて整理します。お楽しみに。

コラム「写真でコレクションしよう」

 今回の記事は、例えば、ポストカードを作ったり、ネット上で小物を販売するときの画像ファイルをつくったり、あるいは料理コンテストに応募したりする際の写真の撮影方法を念頭においています。
 が、これだけにとどまらず、料理でしたらその傍らにレシピを添えて、さまざまな小物類にはその思い出話を添えるなどすれば、それだけでアルバムのような写真集ができますね。

 もちろん、ある程度の期間、持続・継続する必要があります。けれども、自分の品々を数十点おさめた写真集には、おのずから自分の歴史が刻まれていきます。

 また、料理はいうまでもなく、多くの小物たちもまた、いずれ今の姿を止め(とどめ)なくなるのは確かな事実でしょう。
 ”写真の中には永遠がある” と私は考えます。ぜひ、フィルムあるいはデジタルデータに美しい姿で残しておいてもらいたいものです。

]]>