考えるカメラ

  写真①A~C さまざまな撮影モード
 現在のカメラには種々の便利な撮影モードが搭載されています。それぞれの特徴をよく理解し、上手に使いこなしたいものです。
 最近の多くのカメラにはさまざまな撮影モードというのがあって、目的に合ったモードに設定するだけで、後はカメラが自動的に調整してくれます。プロ写真家でさえ難しいことでも、ほんの一瞬でカメラが正しく判断し調整してくれます。  これ、実に凄いことなんですが、実際には電卓やコンピュータに似た限界がありますね。それは何かというと、結局、杓子定規にしか作動しないということです。電卓やコンピュータや多機能なカメラは、それ自身でものを考えているように見えますが、決して私たちのようにものを考えているわけではありません。  もしそれらが人間のように考えだしたとしたら、恐ろしく使いにくいカメラやコンピュータになることでしょう。  大切なのはそれらを上手く使いこなす知恵であり、やる気ですね。でも、これが一番難しいから、そろばんは電卓になり、電卓はコンピュータになり、原始的なカメラは多機能なカメラになったとも言えるのです。妙な話だと思いませんか?  ここではまず、そもそも撮影モードとは何なのかを整理してみましょう。
撮影モードの進歩

 私が写真に関心を持った20年ほど前は、一般的な一眼レフに自動露出(AE)が搭載されだした頃でした。当時の自動露出はどんなものだったかというと、現在の一眼レフにもよく搭載されているシャッタースピード優先(SまたはTV)モード、あるいは絞り優先(AまたはAV)モードと全く同じです。 ●Sモード
 シャッタースピードを決めれば、自動的に絞りが調整される。 ●Aモード
 絞りを決めれば、自動的にシャッタースピードが調整される。  それから数年内くらいに、プログラムモード(Pモード)が一眼レフに搭載されるようになりました。これは、シャッタースピードと絞りの両方の組み合わせを自動的に決めるものです。実をいうとこのシステムの簡単なものは、それまでのコンパクトカメラに採用されていたものです。それが電子化(コンピュータ化)によって精度や機能が高められ、一眼レフにも搭載可能になったのです。 ●Pモード
 できるだけカメラブレやピンボケにならないように、シャッタースピードと絞りの組み合わせを自動的に選択する。  これが次世代への飛躍的な一歩になりました。なぜかというと、電子的なプログラムを変更するだけで、さまざまな目的に合わせた作動のさせ方ができるのですから。そしてこれを実用向きにしたのが、現在の多くの一眼レフやコンパクトカメラに搭載されているインテリジェントモードです。カメラによってさまざまですが、一般的なものを簡単に整理してみましょう。
  写真②A~C
同一露出での写り方の違い
 シャッタースピードと絞りを調整して、同じ被写体を、同じ露出で撮影したものです。種々の撮影モードは、こうした写りを自動的に選択するものです。
 下段にこれらの写真の印象を記しましたが、これは被写体によっても変わります。
A/1/500秒・F2.8
B/1/60秒・F8
C/1/8秒・F22

 

●ポートレートモード
 ブレないていどのシャッタースピードで、絞りをできるだけ開けて前景や背景をボカす。 ●スポーツモード
 被写界深度があまり浅くならない絞りで、シャッタースピードを速くしてブレを抑える。 ●風景モード
 ブレないていどのシャッタースピードで、できるだけ絞りを絞って無限遠から近いところまでピントを合わせる。 ●近接モード
 近接撮影時にブレないていどのシャッタースピードで、できるだけ絞りを絞って被写界深度を深くする。 ●夜景モード
 夜景をバックに人物をフラッシュ撮影する際、シャッタースピードを遅くして夜景を明るく写す。  なんだか被写体別の撮影のコツみたいですね。そして、どんな被写体でも撮影モードを正しく設定しさえすれば、完璧に撮影できそうな気分になりますね。でも、どの撮影モードでも、結果的に変えているのはシャッタースピードと絞りだけでしかないことを確認してください。  ですから意外なことに、本当に満足できる結果を得るには、それぞれの撮影モードに適した被写体(明るさや動きの速さ、カメラや背景との距離)を選ぶことが絶対必要なのです! そしてさらに、フィルムの感度やレンズの焦点距離といった他の条件をも整えなければなりません。難しい問題のほうが多く残っているのです。  こうした撮影モードを使ったのに上手く撮影できなかったとしたら、こうした他の条件がどうだったのかを考えてみるといいでしょう。
  写真③焦点距離と絞りによる被写界深度の違い
 被写界深度は、広角レンズでは深く、望遠レンズでは極端に浅くなります。また、絞りを絞り込むほどに深くなります。ここではピントを1メートル、絞りをF11に合わせた場合の被写界深度を示しました。前号のピントの話、特にイラスト①も参照してください。
左/28ミリレンズでF11の場合
 被写界深度はだいたい70センチから180センチです(黄印)。
中/50ミリレンズでF11の場合
 被写界深度はだいたい85センチから115センチです(11の印)。
右/85ミリレンズでF11の場合
 被写界深度はだいたい95センチから105センチです(青印)。

 

写真の失敗とは何か?

  写真④過焦点距離とは何か?
 被写界深度の遠い側を無限遠にした場合のピント位置を過焦点距離といいます。つまり、この位置にピントを合わせることで無限遠からもっとも近い位置まで、被写界深度を最大限に利用して撮影することができます。写真にはF11の場合を示しています。
左/28ミリレンズでF11の場合。過焦点距離はだいたい2メートル。
ほぼ1.2メートルから無限遠まで全てにピントが合います。
右/85ミリレンズでF11の場合。過焦点距離はだいたい20メートル。
ほぼ10メートルから無限遠まで全てにピントが合います。

 

 ともかく、カメラがこうして進歩をとげるごとに、いわゆる写真の失敗(露出ミス、カメラブレ、ピンボケ)は限りなく少なくなってきました。SモードやAモードを使うことで、シャッタースピードや絞りの設定ミスがなくなり、Pモードやオートフォーカス機能によってカメラブレやピンボケがさらに少なくなり、インテリジェントモードを使うことで撮影目的に適したシャッタースピードや絞りで撮影することさえ可能になりました。もちろん全てが上手くいったわけではありませんが、こうした技術的な問題からかなり開放されたことは確かでしょう。
写真⑤近接撮影時の被写界深度
 どのようなレンズでも、被写体に近づくほど、被写界深度は極端に浅くなります。近接撮影時にはピント合わせが難しくなると同時に、背景や前景のボケが美しく描写されます。
 50ミリレンズで50センチまで近づいた場合。絞りをいくら絞っても、前後数センチの範囲にしかピントは合いません。
 しかしながら、露出は標準的で、ブレもなく、ピントもばっちり合っているからといって、だからその写真に満足できるかというと、なんだか違うのですね。無いものねだりと言われるかもしれませんが、やはり違うと私は思う。そう思う読者も多いかもしれません。なぜでしょうか。  私はこう考えるのです。多機能高性能なカメラを正しく使えば、標準的な写りの写真がほぼ確実に撮れる。しかし、私を含め多くの人々が写真に望んでいるのは、必ずしも標準的な写真だけではないのです。時によっては、真っ白だったり真っ黒だったり、あるいは大きくブレていたり、はたまたピントがぜんぜん合っていない写真にこそ新鮮さや驚きを感じたりするのです。
写真の失敗とは何か?

 絵に例えてみると次のようなことです。絵の手本とか、描き方の手順というのがありますね。あれを真似ると、とりあえず上手く描ける。嬉しい。でもやっぱり、なんか違うな、物足りないな、といった気持ちが心の中にちょっぴり残ります。何度も何度も練習すればそれなりに上達しますが、このちょっぴりは無くならない。ところが小さな子供が描いた下手クソな絵には必ず感動が潜んでいるでしょう。なぜかというと子供は描くことそれ自体を楽しんでいるからです。摩訶不思議なことに、それが感動として伝わるのです。上手く描こうなどという欲深さがないからなんですね。  写真も同じですよね。上手い写真も大切ですが、撮影そのものを楽しむことで伝わる感動はもっともっと大切です。まずは、手持ちのカメラの使い方がわからないとか、撮り方がわからないなんてことを楽しむことから始めましょう。

ケーススタディ


 今回は読者の写真の中から、被写界深度やブレを上手く使っていると思えるものをいくつか紹介します。作例によっては、運良くたまたまそういう具合に撮れてしまった場合もあるでしょうし、逆にそのように撮ろうと思って撮ったものもあるでしょう。悲しきかな、こうした作者の意識のあり方は写真には写りません(条件次第ですが、それが見えることはあります)。もちろんですが、写真技術を習得するためにはできるだけ意識して撮影したほうがいいです。が、運だけで撮れたとしても、それはそれで名作になることも忘れないで欲しいと思います。たかがシャッタースピードと絞りの組み合わせとはいえ、無限の可能性があるのですから。
①被写界深度の深さを利用する。

  被写界深度を深くした例(広角レンズ)

 

 まずは、広角レンズを使って被写界深度を深くする方法(作例①~③)があります。先に述べたように、広角レンズでは被写界深度が極めて深く、近くから遠くまでピントがよく合います。スナップ撮影などで広角レンズがよく使われる理由、あるいはコンパクトカメラやレンズ付きフィルムに広角レンズが採用される理由はここにあります。しかし逆にいうと、画面の中の全てにピントが合うために、何を撮影しようとしているのかが分かりにくくなったり、画面がうるさい感じになりがちです。撮ろうとしている被写体に一歩でも二歩でも近づくのがコツと言えるでしょう。
  被写界深度を深くした例(望遠レンズ)

 

 次に望遠レンズを使って被写界深度を深くする方法があります(作例④~⑥)。基本的に望遠レンズは被写界深度が浅いのが特徴ですが、あるていど絞りを絞り込み、遠い被写体だけを撮影することで、画面の全体にピントを合わせることができます。ともすれば奥行き感が失われがちですが、逆にそれが被写体のダイナミックな様子として表現されることもあります(作例④、⑥)。広角レンズの作例(①~③)と比較してください。前述した風景モードでこうした写り方を楽しむことができます。
②被写界深度の浅さを利用する。

被写界深度を浅くした例

 

 望遠レンズの絞りを開けて撮影すれば、被写界深度は極端に浅くなり、背景や前景を大きくボカすことができます(作例⑦)。ポートレートモードの考え方ですね。コツは、できるだけ被写体に近づき、背景や前景との距離の差を大きくすることです。そうしないと、背景や前景のボケがあまり大きくならず、思ったような効果が得られません。  標準レンズや広角レンズでも、被写体に近づき、背景や前景との距離の差を大きくすれば、同じような効果を得ることができます。特に、近接撮影では被写界深度が極端に浅くなりますから、背景や前景のボケが大きくなります(作例⑧)。  いずれにしても大切なのは、いくらボケるからといって、背景や前景に何があるのかをおろそかにしないことです。綺麗なボケを得るためには、綺麗な背景や前景を選ぶことが必要です。特にカラー写真ではそれらの色に注目するといいでしょう。また、これらの効果をもっと強くしたい場合には低感度のフィルムを使うといいです。
③一瞬を止める。

一瞬を止めた例

 

 シャッタースピードを速くして撮影することで、動いている被写体をストップモーションのように止めて写すことができます(作例⑨、⑩)。スポーツモードの考え方ですね。一瞬を止めることで、普通では見ることのできない視覚で被写体を観察することができます。これは、写真でこそ可能になった視覚のあり方といってよいでしょう。  シャッタースピードを速くして同じ露出を得るためには、絞りを開けなければなりません。このため、被写界深度は浅くなります。したがってピント合わせがとても難しくなります。できれば、高感度フィルムを使いたいものです。
④ブレを効果的に使う。

ブレを活かした例

 

 被写体ブレやカメラブレは、写真の失敗として考えられがちですが、ブレによってのみ可能な表現というのもあります。特に、被写体の動きのようすは被写体ブレによってよりよく表現されます(作例⑪、⑫)。また、カメラブレによって作者の心の動揺といったものが表現されることもあります。  コツはとにかく中途半端にならないことです。小さなブレは失敗に見えますが、大きなブレだからこそ表現に見えるのです。思い切って遅いシャッタースピードで撮影してください。もちろん失敗の確率も高いでしょうが、面白い発見が必ずあります。こうしたブレを上手く使った表現は、あるていどの経験、あるいは運によって始めて可能になります。これはカメラのオート機能がいくら発達しようが、決して自動化はできません。なぜなら、被写体の動きや作者の体の動きの問題だからです。  さて、さまざまな例を大急ぎで取り上げましたが、とにかくは、シャッタースピードや絞り、レンズの焦点距離やフィルムの感度などを大きく変化して撮影してみることをおすすめします。例えば、シャッタースピードや絞りの1~2段の違いでは、思ったような効果が得られないことのほうが多いです。失敗を覚悟で大きく変化すること。そうした経験によってこそ、これらの表現効果がより早くより確実に理解できるはずです。 ]]>

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